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季節外れのマリーナの隅に
ON AIRのオレンジのサイン
夜はそこにだけピンライトを当てる
思いのほか雪は強くなり
ラジオ局で流す古いジャズが
熱く火照って静かを乱す
厚い硝子 ....
切り取って
もう少し違うかたちに
貼り詰めて
色硝子の欠片たち
鏡に映った髪が
指先でもつれて
ささくれた爪が
余計に乱暴になるから
ひび割れが目立たぬよう
綺麗なステン ....
数学が苦手だって言うのに
もう少女ではないから
計算違いは許されない
髪を伸ばすこと
それは可能性
ダイエットコークの味を好きになること
それは目論み
統計では
きみの ....
その指先に
凍れる紅をさし
頬の産毛を粟立たせ
きみは
街なかの雪に泳ぐ
手のひらで固めた結晶は
赤い目を探すうち
もはや雪でなく
氷の透明に変わっている
そんなにも ....
真夜中の毛布に隠れ
短い振動が
密かにわたしを呼ぶ
七十センチ横では
きみの見知らぬ連れ合いが
高らかに寝息で嘘を吐いている
幸福の整理券を
並んで手に入れたものの
本当は少し ....
凍えの夜に
面相筆で刷いた薄雲が
星座に風を満たし
十字に居並ぶ太古の紋様は
くっきりと現在を刻印し
ありふれた永遠を
わたしに見せつける
生は
背中の痛みで
諦めは
....
ポストがあんまり赤く誘うから
こっそり仕組んだ悪戯めかして
宛名にきみの名前を書いた
雪があんまりひっきりなしに
きみの傍に寄り添うから
水晶の珠を割って
ちいさな虹で
憂欝の左 ....
咳がひとつ
窓を抜けて
枯草のなかに逃げた
草むらには
どうやら微熱の欠片が
カマキリの卵のように固まって
冬をやり過ごそうとしているらしい
わたしは昨夜見た夢を覚えていない
....
愛しいと綴らぬ代わり
速達で、と告げましょう
思い煩うこころに替えて
所在の分からぬ神様に
祈りましょう
微かに雪の匂いのする声は
幸福の理由に充分すぎて
零れる音色が
深 ....
軋む
一歩ごと
軋む
心ごと
逃げ込んだ森は
甘美な瀞が満ち
わたしは愛しい景色を
凍る爪先で犯してゆく
痛む
一言ごと
傷む
一夜ごと
明日を司る月が
昨日 ....
夢の無い画面の端に
流星群が見られると記されていた
濃紺に澄んだ空は
白い あるいは銀や朱に
闇を切り取られている
湿り気の残る髪が凍え
湯上りの匂いが後ずさりする
夜着 ....
聞き慣れぬメロディーが
不意に耳を訪れ
きみのケータイを発見せり
外出先で気付いたろうか
今の電話は急用かな
届けてほしいと言うだろか
どうしてくれよう
白いフレームが
こっち ....
薄荷煙草の火も消さぬうちに
十二月が階段を上ってきた
(マフラーの準備をしなければ冬は来ない)
身勝手な先送りを
誰か聞き届けるはずもなく
暦の挿し絵は 赤 緑 白
聖 ....
最後の赤を脱ぎ捨てた
紅葉の合間から冬の声が届くと
過ぎた年月は
あどけない写真に
痛々しく画鋲の痕をつけながら
かなしみを、ときめきを、
なつかしさのオブラートに包み込む
....
どことなくストレス加減の昼休み
冷たい珈琲に浮かんだ氷を
ストローの先でつついたら
猫みみのかたちの小さな生きものが
ちょこりと顔を出した
頭痛の道連れに
こんな小粋な錯覚が訪れる ....
春までの道のりを
手探りするきみの指で
うたは束の間、白く結晶する
凍れる河と
色褪せた山並みと
特急列車の行方を挟み
わたしの前で野分の一陣はわらう
今日も約束の書けぬ手紙 ....
ベランダは東向きだから
朝はとても眩しいよ
彼ね
厳しい審査の結果
高得点で合格しないと見せないよ
足の親指を齧ったあとの
くりん、とキャット半回転
もう ....
不意に訪れる眩暈のなかで
わたしの奥から
声 でも うた でもない 音 がする
無意識に産み落とした空のタマゴは
曇りの日に次々と孵化し
電子の情報に
右脳と神経を肥大させては
....
それは
頑なな蕾
慈しみの雨にも
きららの陽射しにも
咲かずにあり
ひっそりと
花弁の色を思案している
いつかきみの唇 触れて
眠れる森の姫のごと
ゆっくり ....
幾重もの等圧線の下で
雪虫たちは急いて冬を配り
息を白くするあしたは
ドアの外で待っている
羽根のように
踊り
うたう
白のひとひらは冬の鱗
北のまちでは
夏の半分と
秋は ....
柿の実色に日は暮れて
通学路に残ったチョークの○も滲む頃
街中の電線にたわむ百舌たちは
嬉々 嬉々と啼いて安堵する
それを羨む秋の傍らで
きみに書きあぐねている手紙は
お決まりの挨 ....
秋時計の振り子は密やかに
行きつ 戻りつ
たった一人の呼吸では
遮るものがない
少しずつ白くなり始めた町で
掌にほうっと暖をくれるのは
燃料のぎっしり詰まったストーブではなく
ほんの ....
真夜中の病室は
眠らぬ夜が吹き溜まり
ベッドを仕切るカーテンの網目から
そっと闇を窺っている
自由をいつか昔に失った体躯は
ケミカルなチューブの血管や食道が
もはや自らの一部と ....
小さな舞台に幕が引かれる
けれどそれで終わりではなく
むしろまばらな拍手の後を
どうやって取り繕うか
それが今の問題
この日を闊歩する風が
肋骨の隙間を通り抜けて行く
....
わたしの空より
青い青いその先に
あなたの見ている空がある
夏から二ヵ月毎のカレンダーを剥がして
こころの奥まで秋が染みた日
それぞれの手に触れる温もりは
少し哀しい距離感 ....
歩き疲れた素振りを見せず
意固地なくらい背筋を伸ばして
灯りの少ない舗道を歩けば
月の兎と靴音だけがついてくる
無感情に道程を辿り
行く手を遮る列車を見送ると
何故かしら
乗りそ ....
薄暗い廊下の突き当たり
古い鍵を回せば
きらきらと埃が舞うだけの部屋
東のカーテンは色褪せ
ピアノの音色は床に転がって
ソナチネの楽譜も気付かぬふり
窓の外には
金木犀がほろろ零 ....
空が灰色クレヨンの日
風邪をひいた詩人はゆめゆめ思った
詩人たるもの
移ろう季節を誰より早く
探して言葉にしなくちゃいけない
詩人たるもの
少しはむつかしい漢字くらい
す ....
上りの通過列車が
雨上がりのプラットホームを過り
色褪せたベンチの水滴を
さらってゆく
少し欠けた白線と
凸凹黄色のタイルは
きっと黙って
それを見ている
プラットホー ....
あの日も汗を見ていたのは
水色のユニフォームと白い靴
時の詰まったタイムカードに
行儀よく刻まれた青紫色の印字
晴れた夏にタオルを投げ捨て
雪の日も半袖は変わらず
(腰に装備し ....
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