朝を待つラブソング
銀猫


真夜中の病室は
眠らぬ夜が吹き溜まり
ベッドを仕切るカーテンの網目から
そっと闇を窺っている


自由をいつか昔に失った体躯は
ケミカルなチューブの血管や食道が
もはや自らの一部と化している

 痛い、
 痛い、
 痛い

白いシーツと包布の間で
唯一の言葉を繰り返す

 ポトリ・・・・・
 ポトリ・・・・・
 ポトリ・・・・・

生命に届ける薬剤が時を刻み
やっとまたひとつ
日付を塗り替えた

事務のような正確さで
不思議な液体のパックは交換され
彼女の今日を繋ぎ止めてゆく

彼女は今も母親で
先立った夫の連れ合いのはず
しかし住まいを選べない
愛する者に慈しみを伝えられない


枕元に置かれた小さなラジオから
ラブソングが流れ
窓を探している

返事は予想出来るが

 痛い、
 痛い、

名字を呼ぶ

 痛い痛い、
 痛いよ

ごめんね





自由詩 朝を待つラブソング Copyright 銀猫 2005-10-28 13:54:05
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