頁をひらくと
耳鳴りがするので
そこに並んでいる言葉たちは
音を失くしてしまう

不定形の窓から
私がこぼれる
こぼれたのは
   まだ私である
   もう私ではない

ゆらめき ....
箱船の中に
箱庭を置く

箱庭の中に
箱船を浮かべる

箱船の中に
箱庭を置く

箱庭の中に
箱船を浮かべる

……

(内側は外側より大きい)
と誰かの声がする

 ....
僕たちの距離が
この夜にさめざめと横たわる
月の光に傷つけられながら

この夜はあまりにも澄みわたるので
とめどない放射冷却――僕たちの
距離もまた冷えびえとして

けれど見つめている ....
五線がある
君はそこに音符を置く

   それは仄昏いどこかからやってきて
   君の感覚を通過するとき
   音符のかたちをとったもの

君は識っている
その音符が
鍵盤と指とを通 ....
言葉が置かれる
そこから意味がたちのぼる
また言葉が置かれる
そこからまた意味がたちのぼる

たちのぼった意味たちは
なかぞらでつながりあい
時にはまじりあいとけあい

そうして
 ....
シリウスの光を砕いてその瞼に
ベテルギウスの光を溶いてその唇に
さいごに淡い冬銀河の光を
その面輪にうっすらとのせて

私がこうして
君に化粧をほどこすのも
これが最後
冬の星に彩られ ....
遠い手が
わたしに触れている
触れているのにその手は
遠いままで

けれどその遠い手は
わたしに触れている
遠いままで
たしかに しずかに

遠い手の持ち主は
知らないだろう
 ....
その水に出逢うと
わたしはやわらかい小さな舟

その水面をゆく舟でもあり
その水中をゆく舟でもあり

その水の波を 凪をゆく
瀬をゆき {ルビ瀞=とろ}をゆく
ただその水を感触しながら ....
あたりいちめん
黒曜石の闇
静寂

ひんやりとした闇を
全身で感受しながら
踊りはじめる
身体ひとつ

黒曜石の闇の中
踊っている自分の
手先足先さえ見えず

けれどその身体 ....
それでも身体は
どこまでもこわれゆくこぼれゆく
ものでしかなかった
だからせめて
心と呼ばれるものを
身体のすみずみまでしみわたらせて

身体のそとに
しるしを刻んでゆく いくつも
 ....
九月の白い公園には
壊れがちな光が降り
睡たげな水がめぐり

ところどころ
彫像のように置かれた
不在
欠落
空虚

彫像のように
けれど輪郭は持たず目に見えず
けれどたしかに ....
嵐は去った
それが嵐であったことを
彼だけが知っていた


白い円型廃墟
円の中心へとくだる階段を
彼は降りてゆく

円の中心にこんこんと湧くもの
彼は手にした器で静かにそれを汲 ....
静かな波が 寄せては返す
白い砂浜
あまりにも明るく眩しい 夏の太陽
青い空
青い海
波打ち際の波は透明

何故この波打ち際を
歩いているんだろう
夏に海に来るのなど
好きではなか ....
あざやかに青い空には
壮麗な夏雲が立ち
先ほどまでの蝉時雨も止んで
静かだ
永遠というものが
今此処に垂れ込めてきたかのような
濃密な静寂だ
この圧倒的なあかるさ静かさには
けれど あ ....
透明すぎて何も見えなくなった視界を
侵蝕する夏

振り向いては駄目と云った
爛れ落ちてゆく意識で
最後に何を感じたの

ああ {ルビ懶=ものう}い
純粋ごっこの残滓に
濁った火をつけ ....
七月を纏って
汀を歩いてゆく
寄せては返す 透明な波

やがて小さなさびしい桟橋へ
たどりつくだろう
そこから灰色の舟で
向かうだろう
いちばんなつかしい日へ
記憶と予感との ....
銀色のプラットフォームは静かだ
何かが終わってしまったような
白い虚ろな光があたりを満たしている

駅名表示もない 時刻表もない
すべての列車はもう過ぎ去ってしまったのかもしれない
他の乗 ....
韻律都市の夏へ
君が吹いたシャボン玉は
まるで水銀球のようで
それでいてふわふわと
街路を漂ってゆくのだった

それは
この都市の名うてのダンサーである
君が踊る姿にも似て

―― ....
窓を開け
口笛を吹くと
僕の小さな銀色の飛行船が
やってくる

僕は窓から飛び立つ
菫色の大きなたそがれの下に
輪郭だけになった街が広がる

街の一角から
空に向けて放たれ回るサー ....
闇に
幾人もの私が
ほどけて

緑と水の匂い

翅あるひとの気配が
呼吸にいりまじる

ほどけゆくままに
ひとつ
   ふたつ
ともる
   ほたる


になるかなら ....
僕らがよりそう宵のバルコニイのテエブルに
ぽとん と小さな星がおちてきたので
それを閉じこめて
ゼリイをつくった
星の光を透かせて
ほのかに光るゼリイ
そのゼリイのふるふる ふるえが
僕 ....
濡れた火
燃える水

僕らはあまりにも
性急に夢を見すぎた
僕らとは誰なのか
僕らは今どこにいるのか
たしかめようともしないまま

だからそこに出来たのは
はじめから廃墟だった
 ....
四月の世界が明るく亡びて
あとはただ蜃気楼がゆらめいていた

蜃気楼の中で
花は咲き 花は散り
人々はさざめき行き交い
明るく亡びた四月の世界が
まるでそこに そっくりあるかのようだった ....
一面のチューリップをそよがせよ

春に かなしみに
あまりにもふるえ 透きとおってしまう
心臓のために
きらびやかな空が 剥がれ落ちて

菫の咲くほとりをたどって
指たちの

踊る環
   ひとつ
      ふたつ
         みっつ

やわらかな綻びから
洩れる調べの
 ....
夢を炎やしたのか
夢に炎えたのか

いずれにせよそれは炎で
炎えてゆくほどに
   透明な翳りを深め

   深く潜るほどに
   見えてくる星空

遠くからの呼び声

    ....
時は傷
   風は闇

虚空に揺れる鞦韆

水の衣装の傾きをたどる手から
   こぼれるやわらかい音符

   三日月の尖端から滴る
         蜜

 (  ( ((波  ....
月も星も潤む宵に
身のうちに水奏される調べがあり
その調べを辿ってゆくと
やわらかな彩りでゼリイのようにゆらめく
ちいさなユートピアがあらわれる
時折
君の身体から星が発生した
君はいつもそれを
無造作に僕にくれた
――君は星が好きだから
そう云って微笑っていた

何故身体から星が発生するのか
君自身も知らなかった
――何故だ ....
ここがどこなのか
どうやってここに来たのか
わからない場所で
思う
花が花であったこと
風が風であったこと

今ここに
花かどうかわからないものが
咲いていて
風かどうかわからない ....
塔野夏子(459)
タイトル カテゴリ Point 日付
擬似飛行自由詩2*23/3/9 12:02
自由詩1*23/2/15 11:51
夜の距離自由詩2*23/1/19 11:29
楽 譜自由詩5*23/1/9 11:22
模 様自由詩3*23/1/1 14:04
星化粧の夜自由詩2*22/12/21 14:20
遠い手自由詩3*22/11/23 11:21
水の歌自由詩3*22/11/15 12:10
踊るひとの/ための連祷自由詩4*22/11/3 11:27
still自由詩1*22/10/1 13:35
九月の白い公園自由詩1*22/9/25 10:16
嵐のあと自由詩2*22/8/31 14:23
波打ち際[group]自由詩3*22/8/21 10:54
夏の影[group]自由詩8*22/8/13 11:02
衝動の夏[group]自由詩6*22/7/31 11:30
[group]自由詩6*22/7/23 11:51
銀色のプラットフォーム[group]自由詩6*22/7/11 11:19
韻律都市の夏[group]自由詩4*22/6/27 11:19
サーチライト自由詩6*22/6/9 11:17
五月の夜自由詩8*22/5/27 13:02
スタアインゼリイ自由詩5*22/5/17 11:07
沈黙の神殿自由詩5*22/5/1 11:33
蜃気楼[group]自由詩6*22/4/19 11:39
春の指令[group]自由詩7*22/3/25 11:32
早春小景[group]自由詩11*22/3/15 11:20
夢のあとさき自由詩3*22/2/27 11:29
揺 曳自由詩5*22/1/25 13:50
水奏楽自由詩4*22/1/13 11:45
星 座自由詩19*22/1/1 11:23
再 生自由詩5*21/12/15 11:57

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