硝子窓のうちそとに
冬が満ちてゆくとき
光の言葉と影の言葉が
中空であえかにもつれあう
澄んだ秋のむこうに
傾いてゆくやわらかな光があり
時折 小さな風がうごき

耳はおのずから澄まされてゆく
この秋の虚ろをよぎる
ひそかな呟きのようなものに

それはひくく何かを語ってい ....
薄明かりの場所にいる
何もない 誰も来ない
ただ涼やかな静けさに満たされて

佇んでいると
薄明かりの中を
記憶たちが通りすぎてゆく
色のない幻燈のように

《それらは 私の記憶であ ....
君の翅を食べた
君がそうすることを望んだから
君の翅はよくできたお菓子のように
心地よい甘さで
もろくあわく溶けていった
最後に君の背に残る
翅のついていた痕をそっとなぞると
それも夢の ....
九月のしずかなあかるさは
透明な翳りを含んで
その中に点々と
露草の青 浮かんで

波紋するさよならを
心に溜めて
やわらかく孤立しながら
佇む意識の彼方に
ほそい岬
それは空へ帰 ....
静かな頭蓋のなかで
記憶は波だつ あらゆる襞へ
あらゆる層へ
その波たちは伝わってゆく

記憶はささやき
記憶はつぶやく
かたちを持った あるいは
かたちを持たない
出来事のこと 出 ....
AM03:09
開けるべき扉を失くした鍵が
中空で揺れている

意識に垂れ込める
半透明の暗い流体

AM04:23
中空の鍵は
かぼそい声で祈っている

薄紫の波が
幾枚か水 ....
この胸から一枚の
夏の風景をとりだしてひろげよう
青い湖 まわりは緑の森
そのむこうになだらかな丘々
湖には小さな桟橋 つながれている幾叟かの小舟
ほとりに小さく白い館

そこで僕らは
 ....
暗い風が吹いた
濃くあかるい夏空の下を
暗い風が吹いた

暗い風が吹いてもなお
夏空は濃くあかるく
白くかがやく雲を湧き立たせた
蝉たちは鳴き 鳴きやめ また鳴き
鬼百合 向日葵 百日 ....
壊れたピアノがひとりでに鳴って
夏は残酷にあざやかに夏のままだった
空は記憶のモザイクだった
鳴きしきる蝉の声と
ひとりでに鳴るピアノの不協和が
けれどなぜか心地よかった

記憶のモザイ ....
此処は廃墟
もとは何であったのか
すでに忘れられた廃墟
散らばる残骸
もとは何であったのか
すでにわからない残骸

けれど此処にも
美しく夏は満ち
光と風とを遊ばせ
やがてその中に ....
世界は終わってしまっていた
ただ 世界が終わってしまったことに
気づかないひとりが
円形舞台のうえで
踊っていた
世界は終わってしまっているので
そこに音楽はないのだが
音楽があるかのよ ....
君はその身体に
神話と寓話とを
ありったけ詰め込んで
旅立つよりほかなかった
君が旅するほどに
君の身体の中でそれらが育つので
君はいつも張り裂けそうだ
君の身体から
抑えきれず放たれ ....
ある人から
窓をもらっていたことを思い出して
とりだして開けてみた

窓の向こうは
地平線まで何もなく白い地と
日も月も雲もない白い空

ふとその地平線に
何かの影があらわれた
だ ....
夜がやってきて
水槽を満たす

僕らは語りあう
想い出を あるいは
それに似た何かを

僕が君が僕が忘れないように
君が僕が君が忘れないように

水槽の中
青や緑にゆれるもの
 ....
蒼ざめた霧が流れる
旗は透明

静止
巨きな空虚

渡るべき河の音

静止の中を
巨きな空虚の中を
いくつもの星が通過する

見える星
見えない星

蒼ざめた霧のつめたさ ....
真夜中の真ん中に
透明な樹がある
繊細にひろがるその根は
夜の宙に満ちている星々の気を
吸収する
その気は幹をとおり
繊細にひろがる枝葉から
放散される

樹の中をとおるあいだに
 ....
春が来ると
君が心臓に飼っている星座が
かぼそい声ですすり泣く
それを夜ごと聞きながら
どうすることもできない
ただ ほら
ルビー色のチューリップが咲いたよと
君の記憶の窓のむこうの
 ....
白銀の沙漠を
虹色の蝶が飛んでゆく
ひとひらの火が
春の空虚を舞う

それは魚座の一番奥の扉から
あらわれたもの
ほほえんですぎてゆくかすかなもの

霧のなかで河を渡るひとよ
その美しい疲れに
解き放たれた花びらが
 ....
気配を交わす
凪いだ水面に立ちこめる霧のような
気配を交わす

かたちあるものは
言葉にしたものは
どんなにいとおしくても
見つめつづければ

 シュ

 ル
  ト
  ....
無感覚の壁がある
その壁をとおれない感覚が
たえず壁際に降りつもる

無感覚の壁は
何を守っているのだろう
世界から自分を
自分から世界を
あるいは
自分から自分を

君の声がき ....
光が ふるえている
小さくかすかな光が ふるえている

君の中の
青く昏い場所
小さくかすかな光は
自らの源を知らず
また何を照らすのか知らず
小さくかすかなまま ふるえている

 ....
銀の森へ行こう
君の果てと僕の果てが
かさなりあうところにある
銀の森へ行こう

銀の森へ行こう
そこには透明な木霊たちが棲む
たぶん 君も僕も
歌うことができなかった歌たちの木霊
 ....
何もない
仄昏さだけが立ちこめている

空たちがおとずれてくる
幾枚もおとずれてくる
それぞれの世界を覆うのに
疲れてしまった空たちだ
日や月や星を宿し
雲を抱き雨や雪を降らせることに ....
此処は静かだ
これまでに感じた静けさを
寄せ集めたような静けさだ

此処には
君とだから来られた
そして他には誰も居ない
さえざえと澄みわたる処
静かな処

けれど知っている
こ ....
{引用=*四行連詩作法(木島始氏による)
1.先行四行詩の第三行目の語か句をとり、その同義語(同義句)か、あるいは反義語(反義句)を自作四行詩の第三行目に入れること。
2.先行四行詩の第四行目の語 ....
意識の表面に 皮膜のように貼りついた
夢を剥がす 淡哀しく雪が降る ログイン
ログアウト 扉の向こうに 景色をしまい込んだまま
日々は眠る ログイン ログアウト 小さな痛みが
星のように瞬く  ....
バビロンまでは何マイル

ろうそくを灯して
行って帰ってこられるという
バビロンまでは何マイル

だがろうそくじゃない
禁断の火を灯せば
バビロンまでは瞬く間

行って帰ってこられ ....
多分 午睡の夢に
君がくれたセルロイドのホーリーカードが
舞い込んだんだ

だからほら
空は薄青いセルロイド
雲は白いセルロイド
どちらも淡く虹色を帯びて

道の両側に咲く
ピンク ....
塔野夏子(458)
タイトル カテゴリ Point 日付
静寂のエチュード自由詩8*21/11/25 11:58
秋の物語自由詩3*21/10/31 11:09
薄明かりの場所自由詩1*21/10/17 10:14
君の翅自由詩13*21/10/5 10:16
九月 昼/夜自由詩6*21/9/27 11:01
記憶波自由詩5*21/9/19 11:43
未 明[group]自由詩2*21/9/9 11:13
夏の風景[group]自由詩14*21/8/29 10:38
暗い風[group]自由詩8*21/8/15 11:09
壊れたピアノ[group]自由詩4*21/8/3 11:02
廃墟の夏[group]自由詩2*21/7/29 11:33
幸福な踊り手自由詩5*21/7/23 10:55
沈黙の語り部自由詩9*21/7/11 10:39
窓のエピソード自由詩6*21/6/27 11:08
水 槽自由詩4*21/6/9 11:05
河を渡る自由詩2*21/5/29 11:52
真夜中の樹自由詩1*21/4/27 12:00
記憶花壇[group]自由詩6*21/4/19 11:53
静寂の春[group]自由詩3*21/4/9 11:45
ひとひらの火[group]自由詩3*21/4/3 15:32
気配を交わす自由詩3*21/3/11 16:17
青い鳥のように自由詩2*21/3/7 15:00
ふるえる光自由詩2*21/2/19 13:46
銀の森自由詩3*21/1/31 17:05
空の憩う処自由詩5*21/1/15 13:31
静かな処自由詩3*21/1/5 11:40
四行連詩 独吟 <静かに>の巻[group]自由詩4*20/12/29 11:37
淡哀しく雪が降る自由詩5*20/12/1 11:33
バビロンまでは瞬く間自由詩2*20/11/19 14:06
セルロイドの秋自由詩4*20/10/23 14:36

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