私の手は汚れている。
いつも茶色く汚れている。
正しくは、化粧品の茶色い色だ。
爪もいつも、
黄緑色に淀んでいる。
顔のなかを蟻が這う。
私は痒さに爪をたてる。
その爪についた汚れが、 ....
切れた指の皮膚の、
先端から咲いた小さな焔が、
野を駆けるように、
街へと拡がっていく。
私の思念のなかの街へと。
思念の街には色々な人が住んでいて、
皆、凍えながら何かを待っている。
 ....
口から耳を吐き出す。
耳は目になって排水口を流れていく。
目になった耳は明日の壁を踏みしめて
雑踏を突き進む。

耳が吸い込む声は、
いつだって罵倒と嘆きだ。
けれど耳は、
罵倒の皮を ....
真夜中に映し出された、
渇ききった林の奥の瞳は知っている。
ほんとうは、
誰にも何にも、
降る雨などないということを。
それは与える愛ではなく、
誰の胸の奥に必ず咲いてしまう
甘ったる ....
アンタガワルイノヨ、
ゼンブアンタガワルイノヨ、
アンタガ、
アンタガ、

三半規管を往来する
嗄れたあなたの声が、
私の耳から喉に谺する。
私は何故か言い返せない。
なぜなら私はあ ....
『奇跡』               あおい満月

あなたは私を、
べしゃべしゃになるくらいに
叩き潰した。
私は鏡にそれを全部叩き映した。
あなたはそれを知らないままに
私を思い通りの ....
私の耳は雑踏を歩く。
歩きながら無数の罵倒を食べている。
ある声は街中でぶつかりあった肩に
舌打ちし、
ある声は、休日の電話に悪態をつき、
ある声は、暖かな午後に寒いと言って愚痴を吐き、
 ....
私はことばを貪りながら
あなたをワルモノにかえる。
ワルモノ、わるもの、悪いもの、
割れるもの、
あなたは林檎のような赤ん坊だ。
いや、赤ん坊のような林檎だ。
私はがりがり林檎をかじる。
 ....
私のすべてに帰依するもの。
私から外へ帰依するもの。
消えていく、あるいは、
はじまっていく暗い闇さえ、
今は一筋の光に照らされている。

手にした者しかわからない、
痛みとぬくもりが、 ....
切りつけた樹皮のような皮膚からの
血の疾走が止まらない。
血は螺旋になった虹のように、
この腕を伝いおりていく。
かたかたかたかた、
血の足音が三半規管を通過して、
押さえられた手のひらに ....
彼女は、柔らかな鋭い魔物に
背中を喰われている。
しかし、
実際は彼女が魔物の耳を
自分の喉の指に押し込んでいる。
魔物を押し込んだ指が嗤う。
からからからから、
喉の奥の水車小屋で
 ....
驟雨になって過ぎていく時間の中で、
詩を書かせてくれないか、
誰かが囁いた。

誰かの声は確かに、
黒いペンで、
と言ったはずなのに、
私は赤いペンを背中から差し出す。
私は赤いものば ....
誰がさまようというのだろう。
この名もない路地を。
名もない路地には、
ひと影はなく
だから名もない路地と
なったのであろうが、
名もない路地には、
人影は確かにあった。
その人影は、 ....
救済するために、
骨を食いちぎらなくてはならない。
救済するために、
歯をもぎとらなくてはならない。
救済するために、
皮膚を剥きとらなくてはならない。
救済するために、
肉をかみちぎら ....
あなたの大きく開いた口が、
ちいさな海を吸い込んでいく。
あなたの脳裏を走る列車が、
いくつもの駅を追い越していく。
駅には、
誰もいない人で、
あふれている。
あなたは、
誰もいない ....
あなたは今、
いろいろなことばの海を
旅したいと思っている。
そこには淡い色の薔薇の花束のブーケだったり、
あたたかな木のぬくもりの漂うキッチンだったり、
そんな風景が香ることばを探している ....
手を握りしめたまま、
遠く海の彼方から
やってくる風を待つ。
風は、
あらゆる氷山を突き破り、
たったひとつだけ、
この指に絡みついてくる。
このたったひとつの風は、
幾多の激流を乗り ....
脳髄の奥底で、
渦巻く怒りに似たことばは、
構築を知らぬまま
進むべき道の足跡ばかり探る。

*

机の上に仮面が置かれている。
仮面は口元をカッターでなぞられたように
笑っている。 ....
黒く透明な魔物にとりつかれた指は、
もう止まらない、
もうもどらない、
指が進む先は、
まっすぐ なようでかなり
曲がりくねっている。
指には耳がある。
かなりたくさんの耳だ。
無数の ....
ことばを欲しがる指先が、
熱を帯ながら、
水面をぴしゃりはねる。
指先の熱が水を伝って、
水面に映りこむ私の唇に話しかける。
熱は針のように鋭い薔薇の棘になって、
私の唇を抉じ開け、
舌 ....
沸騰する憂鬱を、
跳ね返すことばが、
さかなになって脳裏を横切っていく。
それを掴もうと、
手を握ったり開いたりしてみても、
私は海底に沈む難破船になって
視線を落とす。

*

 ....
ここに、
確かにあなたはいた。
そのとなりに、
確かに私はいた。
ふたりはずっとこの町にいた。
けれども今では、
誰もあなたを知らないという。
私たちはこの町の片隅の
ちいさなマンシ ....
針を指先に刺して、
血の花を咲かせるように、
ことばを呼ぼう。
浮かんでは消えていく気配が、
幻聴によく似た囁きに呼応する。
 ....
夜が皮を剥いで、
真っ赤な朝を迎えたような傷が、
手のひらに滲んでいる。
あなたは見えないナイフを手に私を傷つけた。
 ....
(あれは、何だったか)

火竜になって飛んでいった私の分身が見たものは。
食いちぎられた街、
灰になった街路樹、
口の中が埃臭い。  ....
私はあらゆるものを切り裂く。
カッターを片手に、
自分の顔が描かれたダンボールを切り裂く。
ダンボールから血が流れる。
 ....
鏡のなかの、
少女のままの彼女に
メールをする。
液晶の水面は、
音もたてずに目を閉じる。
鏡のなかの少女は私だ。  ....
手のひらに、
とぎれとぎれの物語がまじわるように、
とぎれとぎれの時間のなかを旅している。
風は、
私にまとわりつく
薄い襞を食んでいく。
一衣も纏わぬ身体になった私の心は、  ....
私は緩やかに束縛されている。
色々なものを見ながら聴きながら、
色々なものを見ぬように聴かぬように。
穏やかな強烈さで
目隠しをしている{ルビ腕=かいな}は誰なのか。

私の中心 ....
肉を食べたはずなのに、
私はさかなを吐く。
さかなたちは私の咽喉から、
ぴしゃぴしゃ、
躍り出て、
シンクの ....
あおい満月(409)
タイトル カテゴリ Point 日付
子宮自由詩11*16/1/1 21:19
手紙自由詩6*15/12/31 18:31
すべりだい自由詩815/12/31 0:32
薔薇自由詩715/12/30 3:35
いのり自由詩615/12/28 22:34
奇跡自由詩715/12/27 20:00
歩く耳自由詩615/12/26 20:02
なみだ自由詩6*15/12/26 2:13
コンクリート自由詩515/12/25 0:24
骨のなかの血自由詩715/12/23 21:00
疾走する彼女自由詩615/12/22 17:04
ナイフ自由詩715/12/21 21:56
ちぎり自由詩615/12/19 23:20
救済するために自由詩515/12/19 2:01
腕輪自由詩8*15/12/17 22:17
大樹自由詩14*15/12/16 21:28
狡猾な力自由詩515/12/13 11:56
地図自由詩915/12/12 1:55
自由詩9*15/12/10 22:19
シーツ自由詩615/12/10 22:18
自由詩11*15/12/9 21:44
自由詩6*15/12/3 22:01
残り香自由詩815/11/22 12:03
パズル自由詩915/11/17 22:09
フロント硝子自由詩8*15/11/11 21:13
火竜自由詩3*15/11/11 21:10
自由詩5*15/11/3 15:40
体温自由詩715/11/3 15:35
放流自由詩6*15/10/28 21:21
ガム自由詩715/10/27 20:17

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