足場は細く
どこまでも長い
尾根を歩いていた
草木は低く
岩肌はもろい
周囲を見渡そうと踏み出した
足を滑らせ
落ちる
底のない
服は破れ
皮膚は削れる
すこし宙に浮く
落ちる ....
サイコロにもう一面加えた
物体を
積み上げたその
屋上に立っている
風は適度に
産毛を撫でる

乾いたシャツが余計で
もっと濡れていたらよかったのにと
ドライアイ
瞬きの度
次々 ....
子供が
空を飛んでいた
いや
飛んでいたというよりは
屋根から滑空していた
大きなカマキリに似た生き物を背中に乗せ

そこから記憶はなく、始まりは窓を開けていた

家庭用プリンタから ....
干しっぱなしで冷たくなったタオルに
小指の爪の先よりちいさく
半透明の蜘蛛が
糸を垂らしてぶらさがっていた

ひかりの加減でようやくきらめく
一本の途中をつまんで
ベランダのへりに移植し ....
しばらくして
テレビを消した
部屋を満たしていた効果音とボケとツッコミが
少し開けた窓から外に流れ出すと
誰かが掃除機をかけているのがわかる

静かで
ひとりだ
冷蔵庫には
鯵の南蛮 ....
ひたひたりと障子の裏
板張りの縁側を歩く女の影があった

夢だということはわかっていた
ずいぶん前に引き払ってしまった
もう祖母しか住んでいなかった一軒家

広い仏間には掛け軸も
どこ ....
一生この煙草を吸っていくのだと
決めるような出来事を
経験してこなかったからだろうか
身体のあちこちがやわらかく
まだ幼虫のようだ

目が覚める
一日に何度も目が覚める
長く眠れずに
 ....
カエルばかり鳴く夜にみた夢のこと
口から泡をふきながら
肝心の言葉が出てこない
夢日記のページは埋まっても
あとで見返せば
何が書いてあるのかわからない
単語と単語の間を繋ぐ接着剤はピンク ....
暑くなりましたね

駐輪場にて声がした
それは幻聴ではなくて

知り合いではない
とおもうがどうだろう
わたしの記憶に自信はない
いまのところ
覚えがないことにしておこう

暑く ....
本を開いては
単語をつまんで
床に落とす

カナリア
使い古された鳥の名前よ
名前を忘れて
休むといい

石鹸
もう何も泡立てることなく
しろい体を
確かめたらいい

 ....
寂しかったのです
取調室で
ひとこと落ちた声

ブロック塀の向こうではためく日ノ丸に
今日が祝日だということを知る

軽自動車のフロントガラスに
顔を押し付けているぬいぐるみと目が合う ....
ドラッグストアの駐車場に陣取っていた
移動販売の焼き鳥屋に吸い込まれ
威勢のいい声がなにか聞こえて
右手にはビニール袋に包まれた豚バラが一本

食べたのだ
食べたのだろう
テーブルの上に ....
ほどけてしまいそうな雲の流れに
交差した飛行機雲は
本体に遅れながら
それ自体が進んでいく

音楽プレイヤーを
ランダム再生にした意味のない
スキップに次ぐスキップ
今日は相性がわるい ....
無限に続く壁
無限に広がる床
あらゆる空間がつながっている場所で
すべてが(すべてが
そのままに飾られていたとして
ひとつひとつ手に取り(触れ(眺め(聴き(感覚を
総動員すれば
好きなも ....
重たいドアを開けると
花瓶がひとつ
テーブルの上に置かれていて

「ここですべてがわかります」
一言だけの手紙に添えられていた
最寄り駅からの地図と鍵

逆光に照らされた
椅子に腰掛 ....
右腕の痺れと乱視と空腹と眩しさと
カイロウドウケツの中で一生を
眠っているうちに過ごした気分だ
ゆるく握った手の中に
かなしみの感情だけを残して
早朝に目が覚めてしまった
歪む顔を隠すよう ....
剥いたあとの茄子の皮をぺらり、ぺらりと、
指先でつまんでは捨てては夕暮れて。
雨の匂いを連れてくる獣が庭先から見ている。

サラダ油が騒がしくなる。
菜箸の先で茄子をころがしながら、
はじ ....
余計な荷物をしまおうとして目に入る
押入れの奥に置かれた段ボール
ふた箱分のCDを
買った順にはじめから
開封して聴きたくなっている
何を天秤に乗せたらいいのだろう
外にはもう出たくないの ....
解熱剤はきかなかった
静かな熱
夜が明ける手前
雲の形が認識できるまで
寝返りを打つ体力も残っていない
生まれてから
今さっき
窓にぶつかって落ちた
カナブンのことまで
順番に思い出 ....
二日ほど前
顔のあたりに穴が空いた
穴というべきかなんなのか
顔があるべきところに
冷たい空気がただよっている
加湿器から出たほわほわが
渦をまいてとどまっているようだ

きっとこれは ....
いつもなら
通らない道を辿って
いつも通る道へ合流する途中
知らないわけではないのに
ハンドルを握る手がすこし浮く
最後に確認した景色との差異
正解のない間違い探し
見つけたとしても
 ....
あなたはいわゆる超能力者なのですか?
と聞かれました。
わたしはそれにうまく答えることができませんでした。
やわらかい否定も不確かな肯定もしたところで、
ただの時間稼ぎにしかならないと思ってい ....
意を決して出かける度に
知らないものが増えている
街にとけのこってしまう
粉っぽくて
だまになる身体
焦りは何も生まないと
言ったその口が震えている

鍵穴をまわす
水音をきく
 ....
この世の終わりみたいな顔して
気にしたこともなかったなんて
言い訳として成立してると
ほんとうにおもっているの

フラッシュバック
あじさいのうしろ

フラッシュバック
ふりかえった ....
キーボードの隙間に溜まったホコリを
エアダスターで吹き飛ばすとき

交差点の向こうで
スマートフォンをいじっているひとが
知り合いと似ている

マグカップのふちからたれた
コーヒー ....
すこしでもふれたら
翅の先で切れてしまいそうな
赤蜻蛉の渦のなか
一歩も動けそうにない

まばらな雲だけが
夕暮の残りを反射して
足元はもう
とろけて
かたちがない

帰らなくち ....
カーテンから
もれてくるはずのひかりが
今日はなんだか弱い気がする
消失点とおなじ朝

つけっぱなしにしていた
デスクライトが
明るさを補完している
ほこりの粒がひとつふたつ

諦 ....
もうすぐ夜が明ける
誰かを励ますわけでもなく
体温がかえってくる
指の先を動かそうとして
ニカラグア
という響きが好きで
土地の名前は知っているけれど
主食が何かも
固有の生き ....
池のほとりにすわって
スケッチブックを片手に
タガメを描いている

頭上には角ばった泥の月が
まだ明るい空に浮かんで
輝きだす頃を待ちわびている

おぼろげな深い場所
夏休みに行った ....
薄曇りの空に
何も足さずに服装を
中途半端で
丁度いい
季節を迎えて

誰かに追われるように
日々を終えて
自分に欠けているものを
夜な夜な数えて

苦い食べ物を頬張るとき
そ ....
Seia(153)
タイトル カテゴリ Point 日付
稲妻石自由詩220/2/17 21:23
塔とは呼べない自由詩120/1/18 20:53
重力に影響を及ぼすほど空気の成分が違う星自由詩319/12/23 0:21
ベランダの蜘蛛自由詩119/11/16 20:54
鯵とテレビと掃除機と自由詩319/9/21 21:59
ひたひたり自由詩119/8/25 21:59
起床自由詩119/7/28 22:03
夢から覚めたカエル自由詩219/6/29 22:08
気化熱自由詩219/4/27 21:51
紙の湖自由詩319/3/24 22:50
亡霊の林檎、湯上がりの空自由詩119/2/24 22:04
豚バラの杖自由詩019/1/27 22:53
書き留める日々自由詩218/12/28 21:21
選択とTシャツ自由詩218/11/18 21:31
すべてが自由詩118/10/22 18:52
偕老同穴自由詩118/9/23 21:06
八月の食卓自由詩218/8/26 22:05
箱の中の箱自由詩418/6/24 23:37
n番目のおかゆ自由詩118/4/29 21:38
冷たい穴自由詩318/3/18 22:17
薄力粉とスティックシュガー自由詩118/2/25 21:38
浮遊する椅子自由詩218/1/28 21:43
下へ向かう自由詩017/12/25 20:30
フラッシュバック坂道自由詩017/11/30 17:39
ある瞬間自由詩017/10/26 19:41
りんご峠自由詩217/9/25 14:34
消失点自由詩217/9/1 15:58
こえをきかせて自由詩117/7/16 23:27
泥の月自由詩117/7/10 18:40
喉元すぎれば自由詩217/4/25 5:06

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