ある瞬間
Seia


キーボードの隙間に溜まったホコリを
エアダスターで吹き飛ばすとき

交差点の向こうで
スマートフォンをいじっているひとが
知り合いと似ている

マグカップのふちからたれた
コーヒーを指でぬぐうとき

冷蔵庫の奥底から
賞味期限ぎりぎりの状態で
発掘されるチョコレート

とある瞬間
わたしはぶつかる
加速器を使ったところで
なにもうまれることのないような
実験ではあるが

仲が良かったひとの横顔をながめる
おもわず
過去形を使ってしまう

主張を続ける拡声器の波を
足早に通り過ぎるとき

雨のなか辿り着いた
市立図書館の玄関前で
休館日の文字をみつける

はじめてたべた果物を
表現する味がみつからないとき

とある瞬間
わたしとぶつかる
たとえばそれは砕け散り
あるいは反発し離れていく
何ごともなかったかのように

音量の調節に失敗し
おいしかったですを聞き返されるとき

落ちながらひらりと舞って
ゴミ箱に入らなかった
絹ごしのフィルムをかがんでつかむ

上着を脱いだすきに吹く風
乱れた髪をおさえるとき

洗濯物をとりこんで
タオルをたたんでいると
カメムシと目が合う

とある瞬間
わたしはぶつかる
てのひらにおさまるものから
逃げ出したくなるものまで
ぶつかり続ける
ある瞬間から
ある瞬間まで



自由詩 ある瞬間 Copyright Seia 2017-10-26 19:41:52
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