明滅がせわしなくてうつくしい

渡されたまま 騙されたふりをして
わたしたち
殺された草を食む
なんという動揺のあとの
なんという静寂

 〈たくさん毒を食べるから
  たくさん薬が ....
かかえきれないほどの
言葉を(かかえて)
あまりの重さに
不意の重さに
落してしまった
嬰児の頭蓋骨が
ゴトッ と 鈍い音を立て
床に落下する

 「ちょっと待って
  いま言葉が ....
東京にもう雨は降らないらしい

眠らずとも
目覚めなくともよくなるまで
幾世紀を費やし
浪費するのは何も砂ばかりではない

やさしい飲みもの
歴史をごみ箱にいくら捨てても
まるで甲斐 ....
息を止めるのも
生き方のひとつと気づいて
息を止めたまま
水に飛び込んだ

晴れていても
目に見えない透明な雨が降っている
名前も知らない人とのあいだにも
透明な出会いと透明な別れが
 ....
すれ違うためのいくつもの道が用意されている
君がどの道をたどるのか知らない
そのため受け取ることのない手紙は書かれ続ける
愉快だが退屈な時間が流れる

雨が降る道を器用に選んで避けた
ふと ....
背の高い男でした
私を食べたのは
盗まれたもの
はありません
私は私の肉体を
返却
します
借用証明書

捨てました
今度は
誰を
レンタルしようかしら

プライスカード ....
もう残されていない水を嗅ぐとき
海は煙り 大地は焦げ
白い雨が思い出のように降った

わたしも同じような所から来たのだ
醤油匂う指で
悴みながら 敬虔に 呼吸をした

その呼吸が あな ....
別れがふたりの街に雨を降らしても
思い出は亡霊となってそこに立ち止まる
そのため傘は濡れ続ける
雨はいちばん永遠に近づいてゆき
あなたはいちばん永遠から遠ざかる
そのためかなしみは旧くな ....
愛 と云うとき
世界がこんなにも憎しみに曇るなら
重い靴をはいて
そしてもう二度と 愛さない

それは ゆるやかなひとつの堕落
最後の刻を待てずに
底なしの憎しみの拳をふりあげたあなた
 ....
なにも捨てなくてよくなり
だからゴミ箱はまっさらなまま
霧のように
きみの気配がただよってくるまで
ねむらずにきみを数えるだけでいい

返信しない手紙が積まれ
日が沈み
離れていくこと ....
霧のような過去がやがて…
と書きなずんで
外は雨
部屋にはキムチの匂いが充満する

ひとたび止まってしまえば
ふたたび歩きだすのは至難
ぎこちなく一歩踏みだそうとすれば
体についた花を ....
見知らぬ国土に降る雨に
静かに碇を下ろし
羽ばたき続けた海岸線に
音もなく見下ろしたあの井戸はもうない
いのちを前にして
ねむることの素朴さを語っている
おまえを愛し
おまえに欲情してい ....
時が 煉瓦のように
積まれていく
臨界に達したら
この窮屈で鬱陶しい街も
木ッ端微塵 吹き飛ぶ
わたしはもうとっくに不在しているのに
街だけが存在しているのは
なんとも  気持ちが悪い
 ....
手に負えない重さ
月明かりに映えるシーツに残るわずかな質量

コーンフレークと牛乳の朝
時間が白い霧となって降っているね
透き通ったグラスは
飛び散ろうとするあなたをゆったりと受け止め
 ....
私も水から生まれたひとりだから
孤りはさびしいだろう
七十年前 誰かがこぼした涙が
いま雨となって私の肩にしたたり落ちる
(人は雨でつながっているのだな)

私のなかで蠢く海流がある
あ ....
いつから夢見ていたのだろう。それもほとんどわからぬまま、夫の藤野の会話をまるで無音のコマ送りにしていた。シンクにぽたぽたと透明とも鉛色ともつかぬ水のしたたりを聴いていた。気がつけば窓の外ではすでに朝日 .... こぼれる時間は青い砂だ
と あなたが云う
青い谷に迷い込んだ蝶はわたし
不在しつづけるひとつの青い無名

立ち尽くしていた
凡庸な言葉の出かかるのを ぐっとこらえ
まるでひとつの禁忌
 ....
馴らされた日々に漂ってくる
なにげないコーヒーの匂いに
ふっと 救われるときがあるのだ
どんな舟も決して満たすことのなかった
完全な航海を ゆっくりとわたしは開始する

宇宙を辷るひとつの ....
淋しさをポケットいっぱい詰め込んで
ひとりきりの夜を歩こう
いつかわたしも永遠になれるだろうか
かつてわたしが 光の一部であったように

わたしは沈黙のほうにある
とすると
沈黙は詩のほ ....
葉が
笑うように
波うつ

五線紙のうえに
窮屈そうに
散らばる
音符と休符

人は
歌うことを
ためらっている

それでも
陽は
けなげに昇りつづけ

詩の一行が
 ....
村雨に光れる木々の目覚ましやわが心中の青きビニル傘

五月雨に光るる道の白皙の{ルビ汝=な}がポケットの淡きセブンスター

ぬばたまの夜に流るる精液の氷のごとき冷ややかさ

けふ夢に出てき ....
わたしは わたしのふしくれた手で
ちっちゃな墓をつくる
アラビアじゅうの香料をふりかけても
消えない前科が わたしにはある
一篇の詩をつくるのに
殺してきたあまたの言葉
本当のことを書こう ....
コップのなかに嫉妬が黴のように胚胎する
繰り返し繰り返された僕のなかの苦しみが熱い
折り込まれた唇が放火する
どんな夏も愛さなかった水が沸騰する

土手の夕凪に
あの影は やはり現れない
 ....
僕のなかの思想が燃える
公園の中を風が吹きすさぶ
穹窿に祈りが刻印される
僕は何者かを求め靴を捨てる

沈黙が時間に色づけする
植物は焦がれている
肺の中を一本の電車が通過する
銀色の ....
雄弁なシベリア
の匂わない活字のS

心は{ルビ旱=ひでり}つづきだ
街に雨が降っていても

既に不実を知った朝
世界はかつて光だったことを思い出せずにいる

はるかな忘却 白い建築 ....
不都合な夏の陽に
白い肌は 非情にも灼かれ

沈黙を借りて 何か云おうとしている
あえかな蕾 文明の摘んだ失語症

こんな不条理があっていいのだろうか
うれしさの対概念としての ありった ....
今朝 浅い眠りから目覚めると
私のとなりで 私が死んでいた
汗ばんだ肉体
ずいぶんと後味の悪い覚醒だった

白墨で書いた 黒板の文字
この癖のある字は 英語教師Nの字だ
仲間はずれにされ ....
風と波とが ゆらめきながら
私を冒す
もどかしさが 私の中で爆発しそうに煮え滾る

結晶化し始めた世界で
私はおぼつかない存在になる
そこに立って 信号が青になるのを待っていた
今では私 ....
ついに鳴らされた音のために
ついに発せられなかった言葉を思うとき
街は 列車は 夕陽は 失われる

冷たい深海魚の 冷たい尾鰭
夏の日に 生き物ははかない光だ
溶けずに残っている便箋
病 ....
地球はまるい
僕はとんがっている

宇宙は広い
僕の心は窮屈だ

光は速い
僕はいつもびりっけつだ

秋の日が暦に倣うころ、僕はあまりにも目覚めよく曇り空を眺めていた。フィレンツェの ....
伊藤 大樹(61)
タイトル カテゴリ Point 日付
窒息する自由詩116/5/29 19:47
骨の記憶自由詩116/5/16 15:35
新しい雨自由詩1016/4/3 12:46
出会いと別れの雨が降っている自由詩316/2/26 21:34
断絶までのびている道自由詩116/2/10 11:00
レンタル自由詩316/1/29 12:26
残り香自由詩016/1/8 17:05
かなしみのかわりに雨が降っている自由詩116/1/4 18:53
良心自由詩215/12/9 22:58
嘘(仮)自由詩215/11/12 21:09
書きなずむ自由詩115/10/17 11:11
夏を流れている季節自由詩315/10/11 22:29
時限爆弾自由詩115/9/29 21:09
螺旋自由詩315/9/18 22:46
雨と記憶自由詩615/8/28 23:10
水辺散文(批評 ...215/8/13 20:24
スイセンのある部屋自由詩315/8/4 20:25
夜のサテライト自由詩615/7/24 4:23
かつてわたしが光だったとき自由詩615/7/15 23:40
わたしが誕まれた日自由詩415/7/11 10:29
麦雨譚 -- 短歌集短歌015/7/5 12:30
卵塔場自由詩415/7/4 0:03
水面自由詩215/6/30 10:52
僕のなかの思想が燃える自由詩115/6/27 12:32
恩寵自由詩115/6/15 12:21
明晰夢自由詩215/6/14 2:58
葬列自由詩015/6/1 22:13
逃げ水自由詩215/5/28 20:22
硝子の質量自由詩415/5/20 20:30
冷たい朝に自由詩115/5/14 20:28

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