青い羊水に染められて
沢山の私が浮上する夜

湖上の舟でまどろむ
かなしみで縫われたカレンダーをめくる

知らないでいることが
おろかなのだと知らずに
罵倒のメールを
憎んでも
憎 ....
いのちを挽いている
音がする
林檎を剥いたら
もういちど飛べるかもしれない

鳥は
鳥という記号に
耐えているわけではない
人は
人という記号に
耐え続け
そのため
もうながい ....
雨のあいまに
雪は三度、降る

微熱をはらむ毛布を払い
寝巻きのまま
もう一度目覚めたら
絶望に一歩近づくということ。

(雨にうたれる準備ならできている)

魚の欠片を口に運ぶ
 ....
あと何分で着くのか
うなじに尋ねる

水辺で死ぬ と
予告されたひと月前
の雲を抱えている
やさしい人たちが
みんな一斉に
難民になる島で
私は呑気に
ひたすら食器を洗った

 ....
熱に浮かされて
ひとりで居る間
私たちの上空を
留めていた骨が

  溶けだし
  また骨に
  戻るまでの
  湿度を保つ

鳴りだす私を/連れ戻す
架空のお前の声が聞えて
 ....
片思いには質量がある。
だから 好き という気持ちは
不変/普遍 なんです
と酔っ払いの男に云われました。

好きという気持ちを冷凍保存して
必要なときにとりだしてレンジで
チンするので ....
贋作の夜を、ハンマーで叩
いて割った
     砕け散った夜の
欠片の中に
いつ貯めたのか思い出せな
     い古めかしい十
円玉が数、枚
それを取ろうとして指を刺
した     見 ....
ガラスの表面を
汗とも涙ともつかない水が伝う

過去を鋤きかえし
クチナシを活ける

日々寄せては返す悔恨は
わたしが築いた防波堤を
かるがる越えてみせる
((( それさえも憎めない ....
隣人は透明な猫として現れる

薄明の線路の上を
囁きながら 死者を乗せて
一本の列車が発車する

台風がそこまで迫っていても
わたしたちの窓は 安全だ
有刺鉄線に蔽われた東京の空を
 ....
孤獨といふ字を書いてゐるとさみしくなる部屋


歳月を物語つてゐるピアノに少しもない塵


蟬よりも蚊のはうに一年ぶりに會ふ夏


眞暗き公園でラムネ嚙めばひとりだつてすずや ....
泥酔するまで
溺れた

お前は やさしいから
一挙一動
こわしたくなる

時計の針だけ
自由に思える
隣ですこやかに
寝息を立てるお前の
横顔が遠くて
とてもさわれない

 ....
わたしの骨が
気づかぬうちに
新しいカルシウムに変わるように
少しずつ平和はゆがんでいき
ついに/衝突する

わたしの眼球が
くだけちって
歩行困難になり
手脚ふるえて
滲んでいく ....
忘れもしない
あの夜が
まったく白かったこと

遺書には
サヨウナラ
とだけ 彫られていて
見知らぬ隣人にも
陽がつつ抜けであったので
街は灰に
足もとを焦がし
渇いて
改札を ....
かなしみが沈殿している朝に
パンを焼いた
手紙を書くふりをして
貝を
捨てました

散乱しているおびただしい私の破片
混乱の果てに
肉体の死が訪れたら
今度は
何を捨てたらよいです ....
やさしさが微熱をともなって
別れのための雨を育てている
窓の雨だれのしみのように
眼球のネガに面影を与えている
あの日の穏やかな君の寝顔

ふりむくともう風景になっている
わたしの中枢へ ....
私に類似した何かが増殖する
濡れそぼつ
海からあがり
意味もないのに
安ベッドの上で
獣の皮を剥いだ

砂の夢
あぶなくて
息をした
昨日の新聞を
やぶり捨て
もっとたくさ ....
毛布のなかで
太陽が 頭をのぞかせた
わたしはまだ死んでいるから
もう一度 生まれなければいけない

脇腹から肩胛骨をとりだし
きみの白い項に移植する
行き場を失った うるんだ指 ....
窓のそと
そこに子どもの笑い声がある
そこに柔らかい春の陽射しがある

窓のそと
そこに車の行き交う音がする
そこに名前も知らない鳥の囀りがある

そのたしかなしあわせを
私は ....
シンクの窓から
光が生まれている
質量はないが
手触りは淫靡だ

わたしたちは渇きやすいから
眠りの岸辺に
傷だらけの素肌をさらす
思い出せない言葉に囲まれ
猫の亡霊を見た──まひ ....
記憶の焼土に
茫漠とひろがっている
透明を佇む石が
ひととき凪いでいる

点滅にさそわれて
浜まで来ると
むせ返るほどの潮の匂いが
過去を引き連れて
私を攫った

夏が焼けつく部 ....
気づいたら痣のような夜が太腿
にできていた。傷口からは海が
滴ってしまうので、私は鰓呼吸
をしなければならなかった、吐
き気を感じてシンクへ、喉の奥
からこみ上げてくる熔岩と陣痛。
それか ....
ラベンダー色の海に身をひたし
悲しみを咀嚼した
ガラスの隙間から
誰かのページをめくる音がきこえる

屈折して
青い血が飛び散る
卵の殻のなかではぐくまれた
そうしていつか 荒涼たる浜 ....
日常から
肌、離陸して
死を忘れている一瞬
匂い立つ樹木
おろかなのは おそろしいが
みじめではない
たぶん

半分まで橋を渡って
そこで橋がとぎれていることに気づく
雨さえ降らな ....
雨によって遠ざかる季節を
窓から見やりながら
沈黙の岸辺に
漁火が
祈りのように あかあかと
あかあかと燃える

わたしの骨の一つ一つが
谺して
幸運なわたしたちのために
浸された ....
帰るとおそらく
ポストに残暑見舞が残っている
自動ドアを命からがらくぐり
人口のぶんだけ並ぶ自転車の中から
くすんだ青い自転車を探して跨り
坂を水銀のように走る僕がいる

帰るとおそらく ....
些細なことから、それまで喫んでいた煙草を消し、彼は帰路を辿った。

冬も近い秋の日である。彼の意識は殆ど寒風に向けられていた。所々解れたセータ一に身を包み乍ら、然し彼は一層溌剌として、凜たる街中を ....
何もかもがたやすく朽ち果てる朝に
いつもと変らず追憶のトーストを焼く
悲しむだけの余地に
骨は散らばる

芽を摘む
わたしたち 悲しいくらい温かい
目の眩む速度でそこなわれていく
わず ....
きみへの愛は痙攣的な近親相姦、あるいはバスの中で音読する官能小説/ジンジャーエール片手に危なげに海の背中を泳ぎきり、思いっきりジャンプする、遠くの方へ、できるかぎりの軽快さで/各駅停車の青空/二度と聴 .... 呼吸を阻害されて、コンビニで売られている愛を、残らずレンジでチンして放課後食べる。季節が人工的に作られたものだってことぐらい、街路樹を見ればわかる。吹き抜ける風はいつだって戦争の味がする。かわいいもの .... どれだけの距離を従え
測ることのできない冥さが
草葉の影を濡らし
遠くで誰かのために海が鳴る
遠ざかり そのため多く夢見た
わたしたちは 健やかだった

打たれたかもしれない雨について書 ....
伊藤 大樹(61)
タイトル カテゴリ Point 日付
溺レル自由詩218/8/12 13:01
滑車自由詩418/4/19 23:45
雪景色自由詩8+*18/4/7 9:01
時間が散らかる自由詩317/11/16 17:45
五月には枯れる花自由詩317/10/13 0:00
3 minutes自由詩217/7/25 17:04
7.5自由詩117/7/5 7:55
浸蝕自由詩217/6/29 18:29
交差点自由詩417/6/25 21:31
麦雨譚 Ⅱ短歌017/6/24 11:54
病い自由詩217/6/24 9:57
もつれる自由詩117/6/23 19:15
日々、アイロニー自由詩117/6/23 19:05
よく似た朝自由詩317/6/13 18:54
天気雨自由詩217/6/4 12:05
砂の夢自由詩217/5/21 20:20
蘇生自由詩3*17/5/17 22:52
自由詩117/5/15 19:17
枳殻の花自由詩7*17/4/27 17:28
記憶の焼土自由詩1*17/4/1 10:27
3.18自由詩517/3/18 21:57
水族館自由詩6*17/3/4 18:32
わたしたちの庭自由詩317/1/14 19:37
浸されたピアノ自由詩416/12/27 17:42
帰路遍歴自由詩116/12/11 11:07
無題散文(批評 ...016/10/16 10:36
破片自由詩216/8/9 18:52
ペシミストのために街は青く光る自由詩216/7/19 4:33
やぶいた夢自由詩316/6/24 20:10
いま、ふたたびの雨自由詩316/6/6 19:28

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