【期間限定~9月15日】18歳以上の人の『夏休み読書感想文』[4]
2016 08/25 12:39
ふるる

フランツ・カフカ『審判』(岩波文庫 辻 せい訳)

ちょっと前に『城』(新潮文庫 前田敬作訳)を読んだら意外に面白かったので、読んでみました。こちらも面白かったです。
とはいえ、お話の内容そのものはそうでもなく、どちらもKという主人公が不条理なあれこれに翻弄されるというもの。お城にどうしても入れなかったり、いわれのない罪への訴訟に悩んだり。
そうじゃなく、時々出てくるボケ?みたいな文章。
例えば、『城』では、出した書類が戸棚に入らないからって、戸棚を倒して書類を無理につっこんで、その上に三人がかりで乗っかって扉を閉める、という描写がある。ばかなの?
とか、Kに助手としてくっついている二人がいるんですが、その二人が人の後ろからかわるがわる顔を出したり引っ込めたりしてる、っていうところがあったり。

『審判』でもそれは健在で、机に手を押し付けて指の長さを確かめている人、カーテンをしわくちゃにする人、ろうそくを腿の上に乗せてバランスを取る人、敷物の毛を指でかきなぜる人、KはKで、弁護士の家でそこの看護婦(お手伝いさん)と弁護士の書斎でいちゃいちゃしはじめる、弁護士は自分が偉くなった設定で肖像画を画家に描かせるし、画家は似たような荒野の絵(ベッドの下でほこりまみれ)を何枚も売りつけてくる。
あと、役人が弁護士を拒むために来たかたっぱしから階段から突き落とす、弁護士側は役人を疲れさせるために階段を駆け上がり、わざと突き落とされ、下で仲間に受け止めてもらうを繰り返す。
って何これ???前に『審判』を映画で観た時、ここの映像は無かったと思うけど、こここそ見てみたかった。

とにかく、不条理な事がどんどん進む暗っぽい文章の中に、時々変なことをしてる人がすっと挿入されてて、そのタイミングが絶妙で、何とも言えない可笑しさを生んでいるのです。
普段冗談を言わない人が、真顔で冗談言ってみた、貴重な瞬間。
それで、内容はさほど面白くないのに、それが見たくてどんどん読んじゃう。

面白くないとは言え、不条理さは、現代に通じるものがあって、役人に、村の人たちが翻弄され、支配されまくる、裁判官や弁護士に、一般市民が翻弄され、支配されまくる。セクハラやパワハラもあり、洗脳されていく過程みたいなのもよく書いてある。
こんな他にはない小説、カフカは捨てて欲しいって言ってたのに、死後未完成ながらも出版してしまう友人の気持ちも分かります。

真顔の冗談が見たい方は是非。
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