雨の夜のガスパール
クリ

右手と左手のための協奏曲 より

 ●雨の精

一度書いては捨てられた詩のように
誰にも知られることはないけれど それでも
人の心に光と影を投げる一瞬があります

ちょうど水たまりを見たときに
雨が降ったんだな と初めて気づくように

「さびしい」とさえ言えなくなってしまった
深く傷ついた涙の痕が見えますか?
「あいたい」とさえ伝えられないその人の
言葉にならない言葉が聞こえますか?

雨の精が太陽と太陽の間に書いた詩を
読むことのできる人は 幸せです

君は誰のための祈りを捧げて
眠りに就きますか?

君が寝返りをうつ頃
世界中がすべて眠る一瞬
静かな雨が降りはじめます


 ●パンドラの寝台

誰にも気づかれることなく 暗闇に漂っていた細やかな雨は止み
干からびた地面をわずかに濡らして終わりました
朧月ほどの大きさの水たまりに ネビュラが渦巻き出すと
ガスパールは旅の身支度にとりかかります

雲の切れ間に動く星に導かれ ベツレヘムを目指します
君は目覚めようとしていますが
幻たちは厚く降り積もって それもままなりません
寝台の小舟は 幻たちの海でキリキリと舞います

箱から溢れ出た幻たちをかき分け
ガスパールは君の寝台にたどり着く
そして箱にたったひとつ残ったものを
君の枕の下に潜り込ませると
やっと君は 目覚めることができました

ガスパールは どこにもいませんし
枕の下を探ってみても 何もありません

でも
いつか どこかで 見つけられるでしょう


 ●スカルボ

この薄明は 夜と朝をつなぐ懸け橋
死と生を結ぶ 短い Interlude

真夜中の 静かな雨は
昔の 誰かの 書き表せない想い
雨に濡れた地面から現れる優しいスカルボ

夢から目覚めた朝は
ガスパールからの捧げ物

葉の上の露に 寝台の脇のカーテンに
消え残ったロウソクの炎に 銀の朧月に
君に伝えようとして 言葉にならなかった
誰かの想いを探して下さい

次は君の番です


                      Kuri Kipple : 2004.03.13


自由詩 雨の夜のガスパール Copyright クリ 2004-03-13 02:48:39
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右手と左手のための協奏曲