土曜日の午後九時
虹村 凌

土曜日の午後九時
町はお祭り騒ぎで
行きかう人々で溢れてる
夜の風は何処までも冷たく
人々の隙間をすり抜けて
煙草の煙をかき混ぜてゆくよ

何度も肩をぶつけながら
駅まで向かう
誰も知らない街で
誰も知らない街で
知らない人に肩をぶつけては
誰かに似てる気がして
振り返ってはまたぶつかる

みんなを知っていると思ったら
誰も自分の事を知らなかった
自棄になって自販機を壊そうとして壊せなくて
誰かが警察を呼んで逃げた
土曜日の午後九時
ずっと泣いていた

あるだけの持ち金をかき集めて
そっと靴の中に隠して行くよ
ブルースハープをポケットに入れて行くよ
空の手提げ鞄を提げて駅まで行くよ
重い手提げ鞄を提げて行くよ

土曜日の午後九時に
駅まで迎えに行くよ
この街を出るんだ
帰る場所があるから
安心してこの街を出よう
土曜日の午後九時に
電車に飛び乗って遠くまで行こう
土曜日の午後九時だから
遠くまで行こう


(煙草の吸殻が増えていく)


土曜日の午後11時
そっと電車に乗った


自由詩 土曜日の午後九時 Copyright 虹村 凌 2006-09-06 11:50:22
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