青い夏
前田ふむふむ

海が仄かな火を抱いて流れる。
流れは、わたしの新しく柔らかな意匠を溶かして、
かわいた青い夏をひろげる。

みずを失くした海が流す、青い夏は、
白昼の街に横たわり、死者を語り、
練られた風貌を、目次に束ねて、
閲覧の趣きを整えるが、
かなしみの裸の序奏に、触れることなく、
街のあるじの窓に穴をあけ続ける。

見えない音の流れを、丹念にたどり、
ふたたび、振り返る景色は、
わたしの過去たちの手のしわ、落ちる水底の夢、
墜落する夏のほころびたちだ。

かつて、営みを語り続ける渇いた砂丘を、
みずで流そうとした青年は、盲目のひかりの布を、
塗り固めた愁色の音を聞く。
種を超えてゆく、黄色を掻きあげる、痩せた掌が、
海の豊饒な眺望を捉えようとして。

あなたは、尚、止まった青い夏を固め続ける。
混ぜ合わせることなく。
諦めた空の高みに色合いを染めて。
仕組まれた怒り、その目覚めのときに、
あなたが立ちのぼる幻想の海を、
走りぬけた眩しい朝に、
選びだされた季節の栄華が、
欲望の地図を赤く塗った、
黎明をつらぬく文明の広場に、
厳かに、置かれた記憶を浮かべて。

あの日から滑りながら、沈んでいく。
敗北した夏は、色を変えずに。

爛熟した走馬灯を、覗き見るわたしに、
眼を逸らして、感傷的な群島の、折れた翼から、
海が滔々と沸きあがる。
みずは、無い。
娼婦のように、渇いている、
青い夏をいつまでも抱えて。










自由詩 青い夏 Copyright 前田ふむふむ 2006-08-08 21:47:26
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