影の世界より  デッサン
前田ふむふむ

白く湧き出る夜霧が彩色の光度を埋める、
途切れた余白だけが、
寂しく横たわり、わたしを乗せている。
染め急ぐ硬いみちが流れるなかで、
滑るように乳白の色をやわらかく溶かして、
わたしは、あたらしい地平を薄暗い瞼に誘う。

なみなみと湿潤な呼吸が、時の始まりを告げて、
まろやかな夜露の声をはこび、
遠くに佇む街路灯の冷たさが、寡黙に顔をあげる。

夜霧の純白を固めて匂う、倒れて煙る意志の時代が燃えて、――

ときより、待ちきれずに苛立つ熱が、
仮面をかけた暗闇を隠して、
背後から強いひかりを泳がす。

戯れる四人の若い女は、眩いひかりを享けとめて、
墨色の影を幾度も動かし、
濃淡の密度を入れ替えて、隠された欲望を、
しなやかな肢体に薄めて、
忘却された影絵をつくる。

わたしは、眠れる海原のなかを、起立する閃光から、
嘘を孕む充足したゆらぎを携えて、
真率な腕を一人の女の空洞の乳房にあてがう。
萎えた足は、四つの肉体の下腹部と交わり、
濡れながら通りすぎる。
流れる影は、うすい余韻を浮かべて、消えてゆき、
わたしの欲望の掌に、限りない孤独への逃走と、
底知れぬ欠落が浮かび上がる。

わたしは、沈黙して、墜ちてゆく記憶を、拾い上げて、
夜霧のみずの滲む静けさに、ゆだねてみると、
わたしの涙の深まりが、白い霧の眩暈のなかで、
さらに、溢れて。

うわずるひかりの気配に染まる、
あなたの失われた足音が、
無彩色の夏の奥から、囁いているように、
語りの糸を結んで。

滴る白い宴のひろがりを高めて、
厚い霧の壁のなかで、欲望の乾いた声が、蠢き、
過去の濃厚な夢の安らぎを、囲んで、
満ち足りた死者の時間が、厳かに沈んでゆく。



自由詩 影の世界より  デッサン Copyright 前田ふむふむ 2006-08-15 23:21:04
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