海—夏の匂い
前田ふむふむ


ひたひたと打ち寄せる若い海が、
青い匂いに弄ばれて、言葉の果てで立ち尽くす、
夏に縛られながら。
波は立ち眩んで、一滴ごとに、ほころびる海の雫が
暑さに滲んでいく――。

散らばる熱が、濃厚に攪拌されて――、
生み続ける時間の沼から、指し示す指先を、
かすかにひろげて、
海の膨らんだ呼吸の音の縫い目を、
芽吹いた瞳孔の底でなぞってみる。

うっすら汗ばむ感情の空に浮ぶ、
軋みだす選ばれた名前は、海の視覚に馴染み、
ひかる暗闇を磨きながら、
移りゆく白昼の眠りを、切り裂いてゆく。

張りつめた海の肉芯を、青いひかりが貪りだせば、
厳かに、みずの泳ぐ声がこぼれる。
その浮遊する水源から、眩しいみずの闇はひろがり、
余白のない夏に浮び上がる。

湿った静寂を曳いたみずおと――
起き上がる色彩の十字路――

白いパラソルが風に孕んで、
色をささえる海は、いくえにも、
硬く青さをむすんでいる。
即興を刻んだ波の音階は、怠けることなく、
わたしの鼓動の高まりに共鳴している。

胸元を開いた空が歌う――
燦燦と高音を弾く、
眼を溶かす日差しは、速度を落して、
わたしの焼けた素肌のなかで、
深く沈んで息づく。

眩暈とともに訪れる、脱いでゆく、――夏の匂い
あなたの白い足で、引いてゆく波が砕ける、
ぬれた浜辺に、夏の潔さが見えて。
振り向くあなたは、真夏のふところに抱かれている、
爽やかな風を携えて。



自由詩 海—夏の匂い Copyright 前田ふむふむ 2006-08-02 09:26:18
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