沈黙する正午
前田ふむふむ


打ち震える涙が、立ちならぶ
忘れられた街景の片隅に、十代の足音を揺らして、
失われた向日葵は、いまだ声を上げて、
古い風の臭いに浸り、
枯れた夏を首に巻いて、
届かない空の裂け目を編んでいる。

八月の空は、うつむき、かなしい汗を投げかける。

燃え落ちた真昼の神話は、二度と帰らず、
枯草色の袖口に、子供の眼がしらが横切る。
そそり立つ岸の上の壁に、
硬くはりだされた夥しい赤い履歴は、
凍るひかりを享けながら
透ける海の濃度に、
老いた天蓋をうすく染めこんで、
太陽の夢の柩を遠くに沈めてゆく。

鎮魂の窓に映りこんで、囁きかける、
木々の形骸に見つめられて、
瞼をふかく閉ざせば、
蝉時雨が、過去の速度を覆い、
新しく燦燦と積もる暦に、
いつまでも、祖父の思想をくゆらせている。

沈黙する正午、――
余韻を頬張るかなしみの鐘、――
若い微風が汗ばんだ頬を撫でる。
駆け昇る先人の眼差しは束ねられて、
ひとつの古い記憶に宛がわれる。

立ち止まる時間の端で
ひそかにため息をつく数羽の鳩が、
辿り着けない涙の荒野を抱えて、
白骨の鎮まる茫々とした暗闇の空のふもとに、
白い香火を引き摺ってゆく。


自由詩 沈黙する正午 Copyright 前田ふむふむ 2006-07-26 22:23:45
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