夏の場所
塔野夏子

空は虹色に溶け
得体の知れない甘さが
いちめんに薫り立つ夏のゆうぐれだ
長い夏のゆうぐれだ
君の記憶が
水のように透明に
けれど水よりも濃い密度で滴ってきて
それは容易く
私の現在を侵してゆくのだ
君の声が聴こえる
さびしさともかなしさともつかない掠れを
いつも何処かに潜ませていた君の声が
聴こえる

あの場所だ
秘密めいた小径が緑の茂みのあいだを
くぐり抜けて誘い込むあの場所だ
得体の知れない甘さは
耐えがたく薫り立ち
君という存在はその中でも
ひどく透きとおっていてそのくせ
何ひとつ透かし見せてはくれず

空は虹色にゆらめき
私は現在を侵されたまま
どうしようもなく長い夏のゆうぐれを
立ち尽くす





自由詩 夏の場所 Copyright 塔野夏子 2006-06-13 18:30:28
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