『僕は蝉時雨に幻聴を聴く。』
クローバー

世界の色に 少し気付けるようになった頃

夕立が止みはじめている
負けじと鳴いていた蝉時雨が 世界の全てだったとき

君は僕のバイトの帰りに合わせて 電話をしてきた

君は君に今日あったことのほとんどと
今の状況 
そして
がんばりすぎて倒れたこと
救急車にはじめて乗ったこと
を話した
蝉時雨は君の声に世界を奪われていた

僕はもう友達の君の話を 友達として聴くよう努め
無理するなよ 僕に話したらいけないよ 帰って来いって言っちゃうから
と言った
(そして その度に僕が、後悔してしまうのを、君は知らないでしょう)

君が泣き始める そして言う
「淋しいよう」

ただ、僕は、まだ、僕は・・・僕は・・・・・

それでも 僕は 友達でなければいけなくなった君に
僕はバカで勘違いしてしまうから そんなこと言っちゃダメだよ
と言って 

ほんとに辛かったら 親にでも言って 帰ってきたっていいんだから 
誰も君を責めたりなんかしないよ
と言って

電話を切らせた。
(そして その度に僕が、後悔してしまうのを、君は知らないでしょう)
蝉時雨が再び世界に広がってゆく

「淋しいよう」

その日から 僕は蝉時雨に幻聴を聴く。



                      ※2003年8月作


自由詩 『僕は蝉時雨に幻聴を聴く。』 Copyright クローバー 2004-02-20 02:05:21
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