カタギリさんを探して1 キップル編
クリ

二日まえに人違い「された」 路上で通りすぎる瞬間に
「カタギリさん!」
って言われた。僕に向けられたものとは思わないので無視して進むと、何度も「カタギリさん」「カタギリさん」。
もちろん僕は「カタギリ」などという名前ではない。
「片桐はいるな」とか「片岡かたぎり」という名では、決してない。むしろ「オトギリソウ」だったら少し近いけど。
周りには僕しかいないので、ひょっとしたら彼は…、と考え方を一瞬で変えてみる。
何かを落としましたよ、と教えてくれているのだが、滑舌が悪くて僕には「カタギリサン」に聞こえるのかも、
あるいは彼の生まれ故郷の方言では、「領収書だけがやけに多い財布を、あなたはたったいま落としましたよ」
と言う複雑なニュアンスを「かたぎりさん」と言い表しているのかもしれない、などと
かなり勇気のいる推測を巡らし、純真無垢を装って振り返ってみた。すると、
「サトーです」
砂糖じゃないよな。砂糖を2杯入れてくれとか、そういう意味なのか。
左党でもないよな。佐藤あたりだろうな。「えっ?」と僕。
だってまるっきり知らない男性なんだもん。女性だったら即座に「おおっ!」って知人の振りをするけどね。
「佐藤ですよぉ」
「……」
「カタギリさんですよね??」
無言で手と首を横に振る僕。
「…すいません」と彼。
それでもまだ怪訝な顔をする彼。知らんっちゅうの。

BGV 「ミスター・グッドバーを探して」「スーザンをさがして」
BGM 「ピコットさん」

                                           Kuri, Kipple : 2004.02.15


散文(批評随筆小説等) カタギリさんを探して1 キップル編 Copyright クリ 2004-02-15 00:44:54
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