さよなら
佐々宝砂

何が残っていただろうかとポケットをひっくり返す
というのは私の好きな詩人がすでにやったことの二番煎じなので
これはまずいと思い
何が残っていただろうかと自分を裏返す

粘膜
血液
脳漿
内臓

裏返してみるとなかなかたくさんあるもんだが
それが役立つかどうかはまったくわからない
私には確かに必要なもんだが
誰に受け止めてもらえるもんでもないだろう
と思いながらさらに自分をひっくり返す

できかけの尿
未消化の食い物
消化された代物

まあこれだけ腹をかっさばけば臭いよ
誰だって内臓裏返して中身ぶちまけたら臭いよ
人間だもん
いや人間だからではないな
イキモノだもん
いやイキモノだからでもないな
ゾウリムシ的イキモノはかなり清潔だもんな
私は哺乳類で
哺乳類の中身はたいていとてもキタナイのだ

それはそれでいいとして
っていうかそれは私のものなので
私にはどうしても否定できないが
それはともかくいいとして

私にはもうこれしかないよ
これしか残ってないよ
それでもいいなんてひどいことは言わないでくれ
頼むから言わないでくれ
お願いだから言わないでくれ

ずるずる引きずる内臓とその中身の残滓
その程度ならくれてやるから
お願いだから
さよなら


自由詩 さよなら Copyright 佐々宝砂 2006-03-15 02:20:21
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