青い円形の家—双子の姉妹
前田ふむふむ

おとぎ話に現れるような青いガラス張り、きらきらと光る円形の家、艶やかな肉体を生きる双子の姉妹が住んでいる。空気が呼吸している肌を一枚脱ぎ捨てる、瑞々しい体液の雫を垂らす木々、凍る岩。双子の姉妹が暗闇の白い夢の街をさ迷う爽やかな朝。緑の大地の裂け目を解剖するひかりが、眼の棲家を転々と変える。静けさは朝の気配をいつまでも引きずり、美しい双子の姉妹は、裸体を寄せ合い、羽根の揺り篭の中を暖める。羽根を千切る鴉の囁きが、太陽が天中にあることを、双子の姉妹に教えるまで。
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双子の姉は、小さな橋の上から、青い円形の家の生い立ちをなぞる。きのうの空が溶けて、きょうの太陽が溶けて、あしたの雲が溶けて、橋の下に隠れて、忘却の河に流れてゆく。河はしだいに溢れて、姉の掌の中で青い円形の家が泳ぐ。姉は必死に溺れないように手を、大きく膨らませ続けている。すると、青い円形の家から、終わりのない忘却し続ける平凡な団欒のひかりがともる。双子の姉は、過去のかすれた装飾を際立たせて、妹と価値を共有して、共に青い薔薇の棘の上を歩く夢を見る。青い円形の家に、炎のような愛がよぎってゆく。
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双子の妹は青い円形の家のくちびるの中から、失われた過去を取り戻すために、三面鏡で次々と溢れ出す多面体の少女を演じてみる。顔を赤らめて、将来の夫の笑顔を支える細い腕が、無邪気な空想の炎を想像する。雨が止み、洗濯物が乾くまで。夕陽が暮れるころ、青い円形の家に向かう双子の妹は、たくさんの大きな野菜をもって、いのちの泉をつくる。幽霊の囁きを楽しむ夕餉の為に。
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双子の姉妹が青い円形の家で、今日を追憶するが何も覚えていない。赤い波を浴びて、鮮やかな春は忘却の底にいるおんなたちの地獄を見ている。されど、季節は高い塔の影から微笑む。季節は、双子の姉妹が、逞しい胎児が産声を上げる美しい記憶と新しい地獄をつくろうとしている未来を喝采する。一匹の優しい獲物である美しい魚に撫でられながら、羽根の揺り篭の船に乗った双子の姉妹は、今日も隆起した夜の海原に、からだを寄せ合いながら一人になり、沈んでゆく。


自由詩 青い円形の家—双子の姉妹 Copyright 前田ふむふむ 2006-03-12 12:11:04
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