歯ブラシとTシャツと
湾鶴

そこに入るべくして、入ったかの如く
キチリと仕舞われていた
トランクの中身。
交互に並べられた歯ブラシ、206本。
一本一本、薄い渋紙で丁寧に包んで、
その、・・・。
歯ブラシは何故か、白くて薄いプラッチック製の
モノしかなく。

後輩の大和煮くんは、
「やっぱり安いやつ、選んだのかな。」
と、毛先を見つめながら 妙に納得していた。

長い旅にでも、出ようと思ったのだろうか
毎日、歯ブラシを包みながら、
電車に揺られる自分を思いながら。

トランクは二段式だった。
僕は見たくなかった。
こういうのを、予感とでも言うのだろうか。

大和煮くんは「お、ここにもナンカありますね。」と
好奇な口ぶりで、
すほん、と蓋を開けた。

その軽々しい音が
妙にリアルで、たまらなく嫌だった。
「歯磨き粉でも、入っていたのかい?」

「いえ、Tシャツですね。それもギッシリ。」
桜紙に包まれた 白いTシャツ 幾重にも。

「なんだか、キモイっすね。」

その声の外で 
そう
ようやくわかった

彼女は、どこにも行く気はなかった
いや、どこにも持って行く気がなかった

「これが、僕の探していた彼女だよ。」
「歯ブラシとTシャツが?」

そう 骨と皮、綺麗な所だけを
僕に残していったんだ。


自由詩 歯ブラシとTシャツと Copyright 湾鶴 2004-02-02 19:07:19
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