冬のカナリア
佐々宝砂

水時計は五色、
薄紅、薄青、亜麻色、鈍色、萌黄、
途方もなく贅沢な時計、

薄紅ならば奥方さま、
薄青ならば二の奥さま、
亜麻色ならば三の奥さま、
鈍色ならばあたし、
萌黄ならばあなた。

あなたの肌はあたしと同じに暗い色だから、
鮮やかな萌黄が本当に似合うわ。
ほら髪もきちんと結っておきなさい、
あなたはとっても可愛いんだから。

あなたのふるさとは暖かな国、
あたしと同じ遠い国、
煮えたぎる緑の、
派手やかな生き物たちの、
遠い楽園。

この国は砂ばかり。
冬の夜は長くて暗い。
それでも風紋は美しいわ。
あなたにはまだ珍しいかしら、
それとももう見慣れたかしら。

ねえ、泣くのはおよしなさい、
あたしたちは泣くために生まれたのではないわ、
あたしたちは唄うために、
さえずるために、
愛されるために、
生まれたの、
ほらこの鳥と同じだわ、
美しく派手やかに装い、
美しく唄い、
ただ愛されるためだけに、

そうよ、
あなたも知ってるのでしょう?

あたしたちは人間ではないの、
カナリアなの。


自由詩 冬のカナリア Copyright 佐々宝砂 2006-02-17 22:18:35
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