ものや思うと問わば問え
佐々宝砂

あかねさす紫野ゆき標野ゆき
そんな旅を胸に描いたわたし
愚かだったのでございましょうか
野守などはおりませんでしたのに
せめて手をお振りになってくださったら
それだけでも嬉しうございましたのに
あなたは黙ってお発ちになったのでした

濡れにぞ濡れじ色は変わらぬこの世界
妾なぞにいったい何ができましょう
あしびきの山鳥の尾の長きに巻かれ
つまらぬ歌を口ずさむのみでございます

妾はひとりで旅に出るといたします
焼くや藻塩の煙を目あてに
海まで歩いてゆきましたら
ひっそりと焚き火をいたしましょう
ご心配なく 身を焦がしたりはいたしませんとも
ものや思うと問わば問え
行方も知らぬ詩歌の道に
親切めかした舵は禁物でございます


自由詩 ものや思うと問わば問え Copyright 佐々宝砂 2006-02-16 18:12:52
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