愛を、つぶやく
七尾きよし

ひとりぼっちの

誰もいない家

ぼくは
押入れにギッシリとつまった
ふとんと 布団の間に隠れ
ゆっくりと戸を閉めた。
光はだんだんと
ちっちゃくなってって
バンって音とともに
ぼくは暗闇の中にいた。

ひとりぼっちで
誰も知らない
世界の片隅で
ぼくは隠れてた。
ちいさな体をぎゅっとチヂメテ
誰かぼくを見つけて!
ぼくはここにいるよ
ぼくはここにいるよ!
ってこころの中でさけんでた。



両の腕を
鳳凰のように広げて
彼は言った。
愛してるよ。

わたしの存在の
もっともこみあった部分に
生温かい汁がすうっとしみこんできて
ゆっくりと でも確かな感触で
彼の言う愛というものが
いつのまにか私のからだを包みこんでいた。
飛び込んでいいのだ。
わたしは愛されるべき存在なんだ。
そんな十年来のわたしの
想いがあっという間にはじけ散って
大きな白い光がずんずん近づいてきて
気づくと彼の胸の中にいた。


ある夜彼はエレキギターを叩き割り
奇声をあげながら暴れまわって
ガラス窓をこぶしでぶち抜き
悶絶しながら いつしか気を失った。
愛よ。ぼくを愛しておくれ。決してぼくを見捨てないでおくれと。。
わたしは病院のベッドで横たわる彼の寝顔の横で
愛してるってつぶやいた。
あいしてるってつぶやいた。


未詩・独白 愛を、つぶやく Copyright 七尾きよし 2006-01-14 20:54:35
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