十一月のオリオン
嘉野千尋

   
   冬の空に
   オリオンが南中する頃
   ベテルギウスは涙を零して
   名前が呼ばれるのを待っている


   冬の空の、暗い、
   まるで何も存在しないかのように見える
   闇を
   あなたは指差したまま
   星の話をわたしに教えてくれる


   アルデバラン、カペラ、リゲル
   それからシリウス
   一つずつ
   星の名前を並べながら
   

   あなたの眼差しは
   少し曇った天窓の向こうへ
   わたしはそっと
   あなたの横顔を見つめ続けた


   一緒になって
   冬の夜は寒いね、と
   微笑みながら


   何もなかったわけじゃない
   わたしたちの間にも
   まるで夜空の、
   星のない闇のような一瞬があって
   その向こうに小さく光るものに気付かずに
   涙を流した日があった


   あなたの指先は
   星と星の間を少し彷徨ってから
   最後にわたしの頬にふれる


   冷たい、と言うと
   あなたは微笑みながらまた
   星の名を繰り返した



自由詩 十一月のオリオン Copyright 嘉野千尋 2005-10-22 20:02:57
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