クリームシチューに、あと少し
umineko

久しぶりにホワイトソースを作る。あの、バターから作るやつ。

ミルクはあたためた方がいい、とか。
木のへらで丁寧に、とか。
バターがふつふつと、泡立ってから小麦粉を、とか。
小麦粉臭さがなくなるくらい、火を通してからミルクを、とか。
いろんなアドバイスがあったなあ、と思う。

なにしろ名人だったのだ。並ぶものなき、ザ、名人。まあ中学生の頃の話だが。最近全然作ってなくて。急に思い出したの。てゆうか、琴美がクリームシチューがからきし駄目らしく、で、いきなし、じゃあ頼んだ、と。

バターはないので、スプレッドで。木のへらは洗ったばっかで濡れてるけど気にしない。火加減は、少し弱め。あれだけ豪語したあとなので、ちょっと弱気だったり。はは。

小麦粉は、バター見ながら目分量。ちょっと、カサってなってきたので、ミルクを、木べらをはわせて、ゆるゆる。火加減も、変えない。てきとーに手も休める。それでも身体は覚えている。これくらいの手ごたえに、これくらいのミルク。

なんてこと、ないでしょ?私が笑う。へーすごいね!琴美が目を丸くする。

なんてこと、なかった。完璧なホワイトソースを目指して、あれほど燃えてたのに。てきとーだった。コツなんてなかった。ただ好きだったのだ。

となりのお鍋の野菜スープを足しながら。ま、こんなもんかな?内心ほっとして、ゆっくりとスープのお鍋に半分、入れる。なーんか、愛情だねえ。琴美が笑う。そうかなあ。なんか手つきが、愛情だよ。アイっち好きだもんね。うん。

好きならやさしくできるだろう。そうだったね。とげとげとあなたを追いつめた、私はなんだったのだろう。好きだったのに。あんなに。ひとりで恐れてた。ひとりで急いでた。自分の出した結論に、ただおびえてた。

そうか。
好きだったんだ。
それだけでよかったんだ。

確かなものが欲しくて。だから。

ぐつぐつと、お鍋がゆれる。小さく。

元気ですか。
あなた。今頃。
 
 
 



自由詩 クリームシチューに、あと少し Copyright umineko 2005-10-04 04:45:53
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