百鬼夜行
千波 一也

竹の林の向こうから
銀の鈴の音 
リン シャラリン


夜露は
月の輪郭を
ゆるりとその身に吸い込んだ



川霧晴れて すすきが並ぶ



トン カラリン
独楽こまが寂しく倒れるような

トン カラリン
下駄が小石をはじいたような



茂みの底に息をひそめて虫のまなこは濡れてゆく



大樹の落とした木の葉を踏んで
てんぐ 
ひとつめ 
ろくろくび

苔むす地蔵に一瞥いちべつくれて
かっぱ 
からかさ 
がしゃどくろ


鴉は捧げる 魚のいのち
狸は捧げる 草の根 木の実

百鬼に献ずる盃そろえば
宴はいまにも
始まるだろうに
それは今宵もあらわれぬ
かくて
夜行は
常世に続く



のどの乾きと盲目の病み
いちばん暗い護りの途へと
長蛇は流れて
今宵が終わる



始終を見ていたふくろうのした
きのこの群れがこうべを垂れて 
夜露はリン、と
砕かれた
まもなく月はそらへと還る


ざわめく声を孕んだ風が
漂う雲を追い払い

月光こぼれる 


蜻蛉が渡る 







自由詩 百鬼夜行 Copyright 千波 一也 2005-09-30 04:58:30
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