火事の日の手記2
炭本 樹宏


 先輩は道路に座り込んでいた。現場には妹、弟二人、父が来ていた。とにかく、何を言われようが、なんと思われようが、少しでも不安を和らげて、疑問に答えなければならないと思った。
腹をすえて、これからの事を考えなければならない。
 
 現場検証のために焼け落ちた家の中に呼ばれた。二階の奥の部屋二つと真中の部屋は完全に焼失。消火のために一階も水びたしだ。まず、間取りを訊かれて、この位置にたんす、ベッド、テレビ・・・。足の踏み場は真っ黒で何が何だかわからない。奥の二部屋の天井は抜け落ちてて、東の部屋は床が抜けている。部屋にあったテレビ、パソコン、机、服、もう、完失。

 原因が知りたかった。数回、検証の度によばれて、朝どこでタバコを吸って、灰皿はどのへんに置いてあったかなどを訊かれ、僕の使っていた灰皿が原型のまま残っていたのが発見された。
尋問の時に話していたとおりの灰皿だ。
 検証の結果、火が出たのはその灰皿の置かれていた床の場所との結論。隊員と話しているうちに朝、出勤する時の事を少しづつ思い出してきた。
 朝食のあと、早めに出ようと、最期の一服だと思ってタバコを吸っていた時レンタルビデオの会員証を発行してもらうため、パスポートが入っていろポーチを引き出しからだした。なぜ、パスポートかと言うと財布を落として免許証がなかったからだ。そのときに灰皿の溝に置いたタバコのことを忘れてしまっていた。はっきりと消した記憶はない。

 その朝、灰皿の置いてた場所、座っていた座椅子、クッション・・・。現場検証をしているうちに、だんだん火が燃えたっていくイメージが明らかになってくる。
 あぁ、なんてことになってしまったんだ。火事を起こしたのは僕なんだ・・・。






散文(批評随筆小説等) 火事の日の手記2 Copyright 炭本 樹宏 2005-09-28 01:13:33
notebook Home 戻る  過去 未来