画家
砂木

ついっと 顔をあげ
仰ぎみている

病室の 窓は薄暗く
パジャマ姿の そのひとは
ベットを 脱け出し 立ち あがって いた

「いまねえ そらを かこうと おもって」

少しとまどいながら 会釈する私に
いそがしそうに そのひとは 言った

ほらっ と スケッチブックを 開いてみせる
ああ ほんとに 笑いながら そっと受け取る

白い画面を 四つに分け
それぞれに書かれた
窓枠 電線 電柱 雲
少し小さい 少し大きい
同じような風景

なにか いいたかったのだが
ただ うなずいて ページを めくった

中学生の時の担任の先生
日本画家である事は 知っていた
生徒である私が 詩を書くと知った時
読むから持ってきなさい と言ってくれた

絵描き とは何者であるか 知らなかった
訃報 葬儀 癌であった 四十四歳

そして 私はふらっと 絵を見に歩くようになった
先生を亡くした喪失感と 死が
私を 絵の中にひきこみ
絵は 色を散らし 線を裂き 手をのばし
虚しさを 抱き とって くれた

ずっと 忘れられなかった
窓辺に ただ立ち尽くしていた姿
情熱に 焦がれた 視線を

  03 07 06 著 


自由詩 画家 Copyright 砂木 2005-09-25 00:21:07
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