それはかなしみのため
石川和広

意外なところから
闇が降りてきた

その中で書いていると
母が向こうを向いて
おばあちゃんと
しゃべろうとしている
しかしお母さんの許せない気持ちが
歯の形になり
お母さんの言葉は
噛み砕かれる
音がして
僕は悲しい

生きている闇が
人恋しい僕に
語りかけている

お母さんのこと
僕の心に歯形を作って
たくさんのご先祖様が
静かに並んでいる列が見えて

おばあちゃんは
もう呆けて何年もたつ

言葉が消えていく
お母さんははなしかけられない
たくさんの感情を
おしこまれた宇宙

弁当がまずかった
叱られた
くらべられた
いつまでも素直に
なれなかった二人
僕の中に生きている

もうおばあちゃんは
ご先祖様のところに
いくかもしれない

愛のすれちがい
噛み合わせが悪い
僕のなかの歯形
かなしみ
誰のものでもない
僕の闇に咲く悲しみ

ねえ
お母さんは
どこにいるの?

お母さんも
おばあちゃんも
迷子なら
僕も迷子?

しかし
離れた個体
ぼくというものに
また意外なところから
闇が降りてくる

かなしみ
なれても
かなしみ

僕はお母さんをたすけられないかもしれない

僕は闇の中で戦う
かなしみと
折り合い
歩き出す戦い

それは
かなしみのため

それは
かなしみのため


自由詩 それはかなしみのため Copyright 石川和広 2005-09-20 18:37:06
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