濃度
たもつ


この大きな水たまりは俺がつくってしまったのか
海を前にして蛇口は茫然と立ち尽くした

もしかしたら俺の栓を大事に開け閉めしてくれた人たちの家も
どこかに沈んでいるのかもしれない

そう考えると居ても立っても居られなくなって
目の前にある水をすべて吸い上げ
細く暗い管のもっと奥にある得たいの知れないところに戻したくなる

海は凪いで港を出た貨物船が沖へと向かうのが見える
ああ、俺はあんなものまで出してしまったのだ

蛇口はもう死にたい気持ちでいっぱいになったけれど
何をもって蛇口の死というのか考えもつかない
泣こうにも真水ばかりが出て海水の塩分濃度を下げるばかりだ




自由詩 濃度 Copyright たもつ 2005-09-19 08:43:28
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