ゴミ屋敷
紀ノ川つかさ

その男はゴミを集め
庭に溜め屋根に溜め
家の周囲までゴミだらけ
悪臭は付近一帯に漂う
注意も警告も無視して
男はゴミを集め続ける
ある日行政のトラックと
TVカメラがやってきた
そしてゴミを強制撤去した
男は怒鳴りカメラマンに飛びかかり
あげくに泣き崩れた
その姿は全国に放送された
もう何度も強制撤去はしたという
でも何度やっても
またゴミ屋敷に戻ってしまう
付近の住民達はあきれていた
さてそのTV放送を見た
一人の精神科医がいて
男を何とかしようとその家を訪れた
でも彼の前に
TVディレクターが立ちふさがった
「何しに来たんだ?
 取材のじゃまをしないでほしいな
 この男は病人じゃない
 ただちょっと非常識なだけだ
 病人扱いなんて
 人権の侵害なんじゃないかな?
 それに彼は人気者だ
 彼がゴミを撤去されるたびに
 泣いたり怒鳴ったり暴れたりする
 実に刺激的なシーンになるんだ
 視聴率も上々さ
 彼がもし常識的な人間になっても
 視聴率を取れる人間になるとは
 思えないしね
 これでいいんだよ」
そうして精神科医は
追い返された
男にはゴミが宝物に見える
本当に大切なものに感じる
でも一般常識として
社会正義として
人々は力づくで彼からゴミを
取り上げる
そして怒るのを見る
本気で暴れるのを見る
つっぷして嘆くのを見る
バカだと嘲って見る
愚か者だと笑って見る
TVの前で見る
ああこれでまた社会の非常識が
一つ成敗されたと
清々しく笑って見る
リポーターが男に薄ら笑いして言う
「よかったですねえ
 おうちがきれいになりましたよ」
その言葉は常識的だが
男を傷つけ傷つけ傷つける
リポーターは怒った男に殴られたが
顔は残酷に笑っていた
誰一人彼の
心の奥を知ろうとしない
必要が無いからだ
必要なのは
お茶の間の
笑いだよね
おもしろいね
楽しいね
ゴミ屋敷って


自由詩 ゴミ屋敷 Copyright 紀ノ川つかさ 2003-12-29 22:51:30
notebook Home 戻る  過去 未来