夏の葬列
大覚アキラ

乾いた熱い風が 海沿いの道路に吹きつけても

九月のアスファルトの上には もはや弱々しい陽炎さえ立たないのだ

海岸線と並行して走る二車線の国道は 気味悪いぐらいスムースに流れていて

八月には駐車場みたいだった道路が いまやまるでアウトバーンのようだ

そして 音もなく走り去る車の群れのすぐ横を とぼとぼと歩くおれは

まるで一人っきりの葬列のようで 黒い日傘でもあれば絵になるのに と思う

おれと おれの影だけが くっきりとゆっくりと

何度も通いなれた道を歩くように 砂浜へと下りてゆき

こんなにも空は青く こんなにも風は心地良く こんなにも光は踊っているのに

月曜日の砂浜にはウィンドサーフィンの若者の姿もない

おれは台風で剥がされた 海の家のトタン屋根の破片を指先でつまみあげて

波打ち際に小さな穴を掘って そいつを埋めてやった

たぶん今ごろ どこかの海辺でも 誰かが

おれと同じように あるいは違うやり方で 夏を葬っているのだ

そうやって毎年のように 繰り返しくりかえし 夏は看取られて逝くのだ

乾いた風に混ざって 口笛が聴こえたような 気がした








自由詩 夏の葬列 Copyright 大覚アキラ 2005-09-01 09:48:27
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