青い花
佐々宝砂

青い花を探しているのだと
そのひとは言いました

私も青い花を探していたことがあったのです

ずっとずっと昔 千年のそのまた千年も前のこと
白茶けた山脈を歩いていました
足元には雪がありました
咽が渇いてたまりませんでした
青い花が
青い花の象徴するなにかが
咽をうるおすだろうとは
当時の私でさえ信じられなかったのですが
私は青い花を求めました
切なく求めていました
でもそれは昔話です 千年のそのまた千年も前の

そのひとは目が見えないようでした
耳もきこえないようでした
白茶けた山脈よりも白茶けたビル街に
瞬間とどまったつむじ風のように
所在なくたたずんでいました
あたりを探ろうと伸ばした両手には
小さなひっかき傷が無数にありました

このひとがくることはわかっていた と
私は考えてしまうのでした
このひとがくるとわかっていたからこそ
私は青い花を探したのだろう と
そうではないそれは間違っている と思いながらも
私は傲慢な考えから
ほとんど涙を流しそうになるのでした

私はそのひとに一杯の冷えたお茶をあげました
それしかあげられるものがなかったからです
そのひとはこくこくと咽を鳴らしてお茶を飲みました
ありがとう それでは と
そのひとは言って去りました

ぽつねんと立つ私の足元に
青い花が一輪落ちていました
拾い上げようとすると
それは風に溶けて消えました


自由詩 青い花 Copyright 佐々宝砂 2003-12-21 00:36:09
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