1945年8月14日
落合朱美


閃光と爆音が果てしなくつづく
長い長い夜だった

終戦前夜の静かな港町に
これが最後とばかりに
ありったけの爆弾が落とされて
夜空はまるで夕焼けのように
真っ赤に染まったという

みんな死んだ
家も宝も人も心も
すべてが焼きつくされたあの時に
涙はきっと
流れるまもなく灰と化したのだろう


土崎は今平和な港町で
すこし寂れた商店街も
年に一度の湊祭りの夜には
人々が溢れ
港囃しが鳴り響き
曳山が勇壮に街を練り歩く

飛び散る汗の下に
お酒で赤らんだ頬の影に
この街の人々は
密かな記憶を刻み込んで
高らかに歌う 
踊る
叫ぶ

海沿いのハマナスは
今年も風に揺れている

60年前のあの日
秋を見ることもなく
焼きつくされた記憶が
きっとこの赤い実の中にも
深く根強く刻み込まれているのだろう






自由詩 1945年8月14日 Copyright 落合朱美 2005-08-02 01:47:11
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