塔の上でワルツを踊る
いとう



雲はかすかに薄い。満月はわずかに遠い。星
たちは月の輝く姿に目を細め身を寄せ合いな
がらその眩しさを囁く。塔の下ではいくつか
の波が押し寄せる。浸食は彼方の記憶。崩壊
は遥かな追憶。廻る者と廻られる者は対とな
って塔の上でワルツを踊る。

完全な輪廻。不確かな手触り。塔の中では忘
れられた者たちの忘れられた祝宴が繰り広げ
られ、忘れられた約束が生まれている。海峡
は水平線の彼方。水平線は闇の彼方。月の恩
恵も懲戒もそこにはない。届かない。新たな
契約は陰暦の隙間で交わされている。

もうすぐ凪が来る。終焉はわずかに遠い。塔
の機能は停止に向かい直進するが、塔の成長
はそれよりも速く直進する。塔の上でワルツ
を踊る。塔の上でワルツを踊る。対となる者
はそれぞれの境界を越え、嗚咽もなく絶滅へ
向かう。不確かな手触りを元にお互いを確認
し合う行為の危うさ。凪が来る。凪が来た。
塔は満月に突き刺さる。塔は先端から崩れ落
ちる。塔の崩壊は根元からではなく先端から
始まり、魅惑的な直進は塔の崩壊によって停
止する。そして、完全な輪廻。星たちは囁き
ながら、ワルツの痕跡を見下ろす。




未詩・独白 塔の上でワルツを踊る Copyright いとう 2005-06-25 23:32:43
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