贅澤品
佐々宝砂

勇猛果敢な、奮立つやうな、そんな詩を書けと言はれた。
だから男は詩を書いた。
勇猛果敢な、奮立つやうな、そんな詩を書いた。
二十年前だつたら書かなかつたやうな詩を書いた。

怠惰に醉ふてスラムプだと言ひデカダンを名乘り、
何も書かぬ儘泥に墮ちて死ぬる筈だつたのだが。
其れが男の理想だつたのだが。

原稿料を貰つても、男は屡々しばしば闇米を買損ねた。
不器用で馬鹿正直で世事に疎かつたので。

其れでも大層な煙草好きだつたので、
配給だけでは足りぬ煙草を、
どうにかして何時も手に入れてゐた。

ヤミで買つた煙草から昔の馨が立上る。

スラムプもデカダンも
最早手の屆かぬ贅澤品だと男は思ふ。


自由詩 贅澤品 Copyright 佐々宝砂 2003-12-06 02:04:41
notebook Home 戻る  過去 未来