あいつとわたし その2
佐々宝砂

闇にはいろいろな色があるのだと
幼稚園児だったわたしに
教えたのはあいつだが
あいつの言い分が
嘘っぱちだと気づいたのは
迂闊にも
二十歳すぎてからだった

あいつは今夜も黒で装っていた
笑止千万にもスタイリストなのだ
昔からそうだ
しかし
黒服で装っても
あいつは闇の住人ではない

あいつがわたしにくれるのは
あいつらしく薄い闇
あいつがわたしから奪うのは
わたしらしく薄い光
だからこそ
これは取り引きなのだけれど
そのことに
わたしが気づいたのは
あまりにも迂闊な話だけれど
いまさっき

明かりのないこの部屋で
あいつは
闇よりもうしろぐらい薄闇にうずくまって
手を……いや
触手だかなんだか曰く言い難いものを
さしのべる
わたしはそれを握りしめる
握りしめつつ
引っ張られるもんかとがんばる

がんばるのも疲れたが
あいつはなにしろ生物ではないから
疲れを知らない
そのへんがむかつく
はなっから
こっちには分がないじゃないか

光にこそいろいろな色があるのだと
わたしに教えたのは誰だったか
ああいったい誰だったのか
それが思い出せたら
こちらにも
分があるような気がするのに


自由詩 あいつとわたし その2 Copyright 佐々宝砂 2003-12-02 02:23:56
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