天国の麦茶
由木名緒美

たたかう

たたかう

何とたたかう

ほほえむ

ほほえむ

野薔薇に口づけをする

かる

かる

雑草を刈る

畑が肥えるように

雑草はね
その土地が必要とする栄養を補ってくれているの

その土地の毒素をきれいにしてくれているのよ


降る

降る

雨が降る

降る

降る

放射能が降る


原発で働いていた彼が重症のバセドウ病になったの

近場じゃよくある話

声をひそめた噂

ネットには乗らない

恐いお話


風評

放射能が恐いと思わせること

安心して暮らしたい想いを破壊するもの

ある日突然、病気になった方が幸せかもしれないと思う

一万日を怯えて暮らすより

笑って散歩する一万日を楽しめたなら

どちらも本当の幸せかもしれない

逃れてしまった罪悪感が
解放感と共に故郷を遠ざける

けれど、あなたが逃れたいと願うなら
神様はかならず導いてくれるから
どうか諦めないで


たたえたい

たたえたい

自然を 悪を
あやまちを
大いなる命運を

謳いあげたい

生きる喜び
改悛の涙
昇る朝陽
照らす輪郭


旅人からの言伝があるの

「世界は陰と陽で出来ている
陽ばかりを求めるから世界は歪んでいくんだ

陰を受け入れさえすれば、世界の調和はとれていく」



辛い日々を歩む君
顔中を皺にして笑い崩れる日を覚悟していて

地獄のあとの天国は
冷えた麦茶みたいに魂に沁みるわ

楽しくて幸せで笑ってばかりで
来世でも地獄に生まれようかなって思っちゃうくらい
天国って案外暇で

本当にぞっとしない話だわ

地獄の今日を
どうか見逃さないで

青空が太陽が
あなたの体温が
あなたを愛するあなたという存在がある


首吊り ロープ とグーグルに入れたら
アマゾンの登山ロープの黄色いバナーに導かれたリンクを
絶望すら感じずに押した日を

懐かしく 愛おしく
忘れていきながら








自由詩 天国の麦茶 Copyright 由木名緒美 2024-03-18 18:18:36
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