河原で石をひろう人たち
菊西 夕座

河原で石をひろう人たち

   貴方に触れない私なら 無いのと同じだから
                鬼束ちひろ『流星群』

蔵王の河原で石をひろう神の子たちがいる
名もない石に名前をつけては聖別し、祝福している
花崗岩にまじる玄武岩のくちづけと涙の痕跡
孤独な私もまた、光がなければ久遠の闇にすぎない
ただ私であると明かしてくれるのは、あなたの眼差し
闇によりそい、闇にかさなることがやさしさならば
やさしいあなたの温もりは、あまりにも悲しくせつない
ならば私に溶けこまないで、強くはげしく耀いて飛べ
いま私があると彫刻(あか)してくれるのは、あなたの一刀
愛はこの身を燃やすことでしか漆黒に星を灯せない
砂塵が吹きぬける黄灰色の荒れた山肌をくりぬいて
光彩陸離たる緑の静寂(しじま)が湖面をひたしている

蔵王の火口で星のかけらをひろう鬼のみなしごがいる
秘められた情念を歌託(かたく)し、愛惜している
マグマから冷えてなお、愛をかたどる沈黙の石
闇にほのめく蛍こそ、私がとめたあなたの勲章
すべてを刹那にとじこめて、蛍の地球も化石にかわる
時の流れにけずられたふるえる惑星と太陽が
宇宙の氷河ではちあわせ、ゆわえた抱擁を
「8」(や)のようによじれても互いの円を別かたず生きよう
《今夜君の部屋の窓に星屑を降らせて音を立てるよ》
黒衣をまとう歌姫が火口の窓に青信号をうたわせる
この身が砂塵にくずれても、いつか出会える8(や)の字のループ
蔵王の河原で石をひろう神の子たちがいる


自由詩 河原で石をひろう人たち Copyright 菊西 夕座 2024-03-10 16:49:20
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