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プテラノドン

「だって、WAXをかけた車の雨粒をはじく姿が好きなんだ。」

 ふってくる五月雨は その他 いくつかの言語を残した。
けれど歌いはしなかった。
 夜の映画館、「一つの思い 一つの歴史」と宣伝された
ポスターが貼られた前、映画女優のそれと似た
サングラスをかけた女が黙って立っている。それを見て
黒人の子供がライムする。相方の男は 壁にスプレーを吹きつけている。
その描かれたメッセージには彼女への愛が込められていたというのに
しばらくすると うるさい犬のお巡りがやってくる。奴ら、どうにかして
彼等に鎖をつけようと追いかけるが
犬のくせに足が遅い。行きかう人が笑う。昨日から(そして、明日も)
酒を飲んだ男の運転するバスの窓は、結露で曇っている。
乗客は気まぐれに外を見るためにだって、―不運にも乗客は、
「気まぐれ」に性格づけられていたために、
何度も手で拭かなくちゃならなかった。「指紋が消えるまでやるってのか?」
たまりかねたのか、気難しそうな手が言った。
 そう。―本当に不運だったのは乗客は「手」だけだったってこと。
だから話を進めれば進むほどに、誰が誰だか見分けがつかなくなっちまう。
あらかじめとか仮説的にとかさんざん前置きしてから、
さてさてと、手をこすり合わせる詩人が(そいつはインチキだ)
「僕のとっておきのセリフで、さよならにしないか?」と言う。
 しかしその時すでに、乗客達は雨あがりの街中へと手を振り去った後
運転手もどこか違う所で寝息を立てている。
 真っ暗な停車場、その倉庫内に一人とり残された詩人はまず、
ホースでバスを洗い、それから
昔見た映画「ベストキッド」のやり方でWAXをかけている。
バスはくすぐったそうに揺れる。そして詩人はとっておきのセリフを口にする 


自由詩 W Copyright プテラノドン 2005-05-17 04:28:15
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