大つごもり
そらの珊瑚

義母が黒豆を煮ている

石油ストーブの火を小さくして
その上に置いた大きな鍋から湯気と香りが立ち上っている
こういうのをコトコト煮るっていうんだろうな、と
一歳になったばかりの子を抱っこして眺めていると
ふっくらと育った
しわひとつない黒豆っ子たちは
黒い温泉に浸かって
つややかに
幸せそうに光っている
生きてるね
生きてるよ


「コツはね、古釘を入れるのよ」と言う義母の言葉はちょっとした衝撃だった
そもそも黒豆を自分で作ろうという気持ちなど
そもそもわたしにみじんもないくせに
古釘は衛生的にどうなんだろう、
洗えば大丈夫なんだろうか、
でもどうやって探したらいいのだろう、
まさかお店の乾物コーナーに売ってないよね、
困っちゃうよ、
などと思ってみたりしたのだった

床の一部がぎしっと鳴る古い台所も
今はもうない
時の尻尾を捕まえ損ねたわたしに
黒豆と古釘のまぼろしを見せながら
一年がまた過ぎていこうとしている


自由詩 大つごもり Copyright そらの珊瑚 2023-12-31 12:40:49
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