陽の埋葬
田中宏輔


──おいでなさい。よい星回りです。
(ゲーテ『ファウスト』第二部、相良守峯訳、罫線加筆)


畳の湿気った奥座敷、御仏壇を前にして、どっかと鎮座する巨大なイソギンチャク。


(座布団が回る、イソギンチャクが回る、互いに逆方向に回りはじめる)


──おいでなさい。よい星回りです。
(ゲーテ『ファウスト』第二部、相良守峯訳、罫線加筆)


イソギンチャクが呼吸をするたび、星々が吸い込まれ、星々が吐き出される。


(そのたびごとに、宇宙はこわれ、宇宙はつくられる。)


──おいでなさい。よい星回りです。
(ゲーテ『ファウスト』第二部、相良守峯訳、罫線加筆)

螺旋に射出された星々が超高速で回転する。


(刹那の星回り!)


星と星と星との饗宴。


鐘と鐘と鐘とが響きあう。
(ジョイス『ユリシーズ』9・スキュレーとカリュブディス、高松雄一訳)

(団栗橋だなんて、懐かしいわねえ
 京阪電車も、以前は、地面の上を
 走ってて。ほら、憶えてるでしょ
 橋の袂を通るたび、桜の花びらが)


semaphore 腕木信号機。


(通過する急行電車!)


semaphore 腕木信号機。


(通過する急行電車!)


──もうどのくらい占星術に凝っているのかね?
(シェイクスピア『リア王』第一幕・第二場、大山俊一訳、罫線加筆)

(憶てるでしょ、ほら)


点滅する信号機!


さくら、


さくら、


点滅する信号機!


さくら、


さくら、





自由詩 陽の埋葬 Copyright 田中宏輔 2023-12-04 00:01:24
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