長雨スケツチ (旧作)
石村



すずろな雨に日は暮れた。
夜風は時折強く吹き
それは何処から吹くとも知れなかつた。

日暮れて尚雨は降り続け
郵便ポストはほのかに照らされ
誰かの差込んだ茶封筒が濡れてゐた。

 すずろに雨は降り続き
 お屋根に染みる 秋の宵。

隣のお嬢さんは風邪引いて早退けし
夕暮れ時を寝て過ごし
今頃は目覚めて 寝床の中で
夜雨の音をきいてゐさうなものだ……
彼女は時折、階下の家族に思ひを馳せ
それから地球の回転運動と
明日の宿題のことを考へる。

 すずろに雨は降り続き
 お屋根を叩く 秋の宵。

僕はつめたい畳に独り坐し
途方も無く 北の海の夜や 古い校舎の時計を想つた。
はてさて何時かは止むのであらうか、
どんなものか、と訝りながら
新聞を拡げて 爪を切つてゐると
何やら 肌身に染みる 雨の音……。
湯が沸いて 薬罐が老婆のやうに喘ぎ出すと
ただもう 唖然とするばかり。

 すずろに雨は降り続き
 お屋根は睡る 秋の宵。


    (一九九一年十月十日)



自由詩 長雨スケツチ (旧作) Copyright 石村 2023-10-12 17:03:31
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