陸路
由比良 倖

自分を信じられない、私の身体には、
冷たい部分と熱い部分があって、
どちらを差し出せば君が喜ぶか、
私には分からない。だから吐いている、
影の中で、

「さよなら世界」、
眠る間もなく、広告塔に照らされて、
産まれたときから落下している、
産まれるまえから、子宮の中でペンキの色の
目を開けたときから、私のシンギは
問われつづけている、陸路を海沿いに歩くと、
レモン色のお星様がいっぱい描かれている、
沢山の輪っかが目に浮いて、家の中の音がする
山の方は錆の色――プラスチックで、
透けている。

散歩道は
水中で毬の味がする

色つきの煙は、絵みたいに重なって
花みたい、街灯の下で、ねえ
花には飽きました、飽きたけど
綺麗だし、綺麗ですけど煙で
そしてしかも絵なんです
飽きた、本当に

でもまた、シンクで私は何かを吐いて
冷蔵庫を開けると裏も表も
微笑を湛えた世界ばかりで
冷えた水には細かい青い、棘がいっぱい浮かんでて
脳は耳から溶け落ちていく、舌の青さも
世界の味も、漫画みたいだったらいいのに

命を処理しに飛び降りている間も
風を楽しむ余裕くらいあればいい
とはいえ私は、夜中の部屋が好きで
画面の明かりが好きなので、
拡散する煙や、命が好きなので、
(())*)――、
墓碑銘は既に刻まれたので、
安息無しで生存出来るので、

静かにこれら街の絵を、
私の部屋で、遠い手で、
綴じていたい、その
複雑さを、
夜の心が止まる音を、その
[きっかけ]∋[(0≠T)]→…と、
―~―(ざわつく)、・・・.、気持ちばかりの
ノイズの波を、描いていたい、

人間が分からない、時間が分からない、
私が分からない、
違う? ねえ、「“違うって、言ってよ”!」

私は自らの水の温みに浸り、
君の言葉を受け容れない、何ひとつ、なに、ひとつ、
……そして錆びた目で笑う、澄んだ日の出へと、
手を伸ばす、
手のひらが笑う、目を瞑り口を噤んで、それでも気分は、青くて……
強いて言えば、私は世界を愛しているのだ、と、つまり、
こんにちは世界、
いつかこの一日に、この手で触れるまで、
そして、さようなら、
お花の絵たちの青い世界、
さようなら世界、
奇跡は、日々から剥がれていく、

木々の隙間から見える空は、
あれは何の色だろう、
みんな太陽の裏側みたい、
いつも床の裏側で、
何も持たずに、背中は溶けて、
煙を影に吐き出して、
麻痺した過去を飲み込んで、
笑って、
痺れた世界に、
泣くだけのことをして、
水に流して、

何にも感じない、痛みも、恐怖も、
そして永遠に、目を瞑らない、
ぼんやりと湯気の中に立っている、
私はきっとこんなに乾くべきではなかった、
何も感じない、
死んだ私の乾いた魚が、
時間を飲み込んで、
眠りに就けば、誰かが明かりを消してくれる……


私はここにはいない。
私はここにはいない。
私はここにはいない。
足りないんだ――足りない、
足りないんだ、私には、何も――、
何も、何も、足りないんだ。

どうかこの世界を、私の、世界の明かりを、
消して欲しい、私を、眠らせて、
私を、私から、失わせて欲しい。

どうか私を、君の彼方に、眠らせて欲しい……
今の私に、どうか憶測で何か感じたりしないで、
君が、私の部屋の明かりを、じゃあね、と優しく、
消してくれたなら、それともいつか、
いつか、君と同じ場所に、私はいられるだろうか……

ねえ、私は何処へ向かえば、行けばいい……
― - ∽ - (@)…、
…・…、、 一体何処へと? ……―――。


自由詩 陸路 Copyright 由比良 倖 2023-09-30 09:51:35
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