入江にて
室町

そう
カーテンのようになれないかと
考えていた
風が吹けば膨らみ
引けばもとに戻る自在さ
その自在ささえ習得すれば
横暴なままで
横暴さを越えられる

ずっと川が流れていた
いずれ大海に注がれることを忘れ
川の流れにそって
歩いていた
対岸があり
流れがあり
草の道があった
それは わたしの川だったが
人もそれを川と呼び
わたしもそれを川と呼んだ

とつぜんそれについての論争が
わたしのなかに
巻き起こるとは夢にも思わなかった
入江についたことを忘れていたのだ
わたしの川はもうどこにもなく
廃棄物の砂浜のむこうに
鏡面のように扁平な海が
広がっている

わたしは海が嫌いだと声にだして
いってみる
すると風が巻き起こる
その風をうけてわたしは一枚の布になる
布は風をはらんで膨らみ
かろやかにひるがえると
四方に抜けていく
もしもカーテンになれれば
しばらくはそうやって
この入江で生きていけるかもしれない






自由詩  入江にて Copyright 室町 2023-09-24 09:18:31
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