檸檬風
たもつ



檸檬が眠っている
そう伝えると
Leの発音が上手すぎて
たくさん笑った
水辺にある満員電車の名残り
その色と形
黄色い皮の中に
幾筋の風が吹いている
わたしの皮膚は汗ばんで
湿っているから
もう夏も終わるのかなと思う
檸檬の隣には
立派な街がある
人や物が動いている
歩道橋が撤去されたあとには
同じ形の空がはめ込まれていて
他のと見分けがつかないくらいに
まぶしい
制服姿の男子が疾走する
わたしもあんなふうに
速く走れたら良かったのに
鍵をかけ忘れた冷蔵庫の野菜室や
暦に記した束の間
手慣れた所作でゆっくりと
毎日の物事を終える
会いたい人がいる
檸檬の風に吹かれて眠っている
不確かに参列する





(初出 R5.9.13 日本WEB詩人会)


自由詩 檸檬風 Copyright たもつ 2023-09-14 07:08:45
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