風景の終わりに
たもつ



冷蔵庫が音もなく
坂道を転がっていく
薬屋の坊やがその様子を見て
花の名前を口ずさむと
雲ひとつない青空は
木々の亡骸を歌う
むかし此処いらに
小さな書店があったことなど
思い出す人もいなくなった

電信会社の作業員の汗が
舗装に落ちて蒸発する
循環しまた誰かの汗になる
昼寝をする微かないびきは
飛行船の浮力
午後の話をしながら
次の夢を目指して消えていく

終わりのない坂道を
どこまでも
冷蔵庫は転がり続ける
風景の終わりに
小さな夕暮れがある




(初出 R5.9.9 日本WEB詩人会)


自由詩 風景の終わりに Copyright たもつ 2023-09-10 05:58:10
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