遠雷
室町
内海の
淵という淵をふるわせてやってきた風に
我が家のカーテンは
たちまち妊婦のように孕(ふくら)み
裾はひるがえって
海老蟹文様の空をまぶしく刻印する
内側は闇
ひっそりと
仰臥するしかないわたしは
世界の
わたしの 無能に
涙を流すこともできず
人として盲いている
知らない神に
祈ることもできず
野辺の地蔵はただ微笑んでいる
何も見えない目を見開いて
虚空のいろを映しているこの瞼のあたりに
い
色は匂へどちりぬるを
我が世 誰ぞつねならむ
などと
つぶやけば
明滅する 満天
こちらからみれば ─ 怖れ
そちらからみれば ─ 条理
おう
はやくもやってきたぞ風にのって
雷雲が
いつのまにそこにいたのか
わたしの傍らの小さな胡蝶が
長い触覚を槍のように
振り上げて
とびたってゆく
おう
夢のなかの英雄のごとく
4度目の起訴後
自ら出向いて収監直前の前大統領が
インタビューに答えている
「これから世界はどうなりますか」
私たちは何かに向かって進んでいるように見える。
それが何なのか私にはわからない。
見たこともないレベルの情熱がある
見たこともないレベルの憎しみがある
そして、
それはおそらく悪い組み合わせだ。