遠雷
室町

内海の
淵という淵をふるわせてやってきた風に
我が家のカーテンは
たちまち妊婦のように孕(ふくら)み
裾はひるがえって
海老蟹文様の空をまぶしく刻印する

内側は闇
ひっそりと
仰臥するしかないわたしは
世界の
わたしの 無能に
涙を流すこともできず
人として盲いている
知らない神に
祈ることもできず
野辺の地蔵はただ微笑んでいる

何も見えない目を見開いて
虚空のいろを映しているこの瞼のあたりに
い 
色は匂へどちりぬるを
我が世 誰ぞつねならむ
などと
つぶやけば
明滅する 満天
こちらからみれば ─ 怖れ
そちらからみれば ─ 条理

おう
はやくもやってきたぞ風にのって
雷雲が
いつのまにそこにいたのか
わたしの傍らの小さな胡蝶が
長い触覚を槍のように
振り上げて
とびたってゆく
おう
夢のなかの英雄のごとく

4度目の起訴後
自ら出向いて収監直前の前大統領が
インタビューに答えている
「これから世界はどうなりますか」

  私たちは何かに向かって進んでいるように見える。
  それが何なのか私にはわからない。
  見たこともないレベルの情熱がある
  見たこともないレベルの憎しみがある
  そして、
  それはおそらく悪い組み合わせだ。






自由詩 遠雷 Copyright 室町 2023-08-26 09:37:48
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